NOVEL1

□虚空に消えた想い
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「じゃ、俺、先にグラウンド行きますから」

「待っ…!」


いつの間にか着替え終わった沢村は、俺に会釈(脱帽はしたがとても簡単なものだった)をして部室を出て行こうとドアノブ握り、押し開けた。

しかし、俺はそれを阻止する。

わずかに開いたドアの隙間から漏れてくる夏の日差し。
逆光となって、一瞬沢村の顔の表情が確認できなかった。


「なんすか?」


明るいトーンも、この細い手首も、シルシがついている肩口も、頭の先からつま先まであの1年もモノだと思うと、これ以上我慢できなかった。



「降谷がすきか?」

「へ………っはぁ?!」

「そんなに驚かなくてもいいだろ。…なあ、降谷のことがすきなんだろ?」

「急になに言い出すんだよ!?」

「どうなんだよ」


威圧的だと受け取ったのか、沢村は押し黙る。

本当は、コイツから「降谷がすきだ」とはっきり言われれば「しょうがない」「沢村が選んだんだ」と割り切れるような気がしたんだ。

だけど、



「す、…すきだよ」



そう言った瞬間のコイツのはにかんだ笑顔が。







ぷつん






どこの線だか、血管だか、わからない。

何かが切れた音がした。


ドアノブを沢村の手ごと掴み、日光が射し込んでいた部室のドアを荒っぽく閉める。
驚いたのかその俺より薄い肩がビクリと揺れた。


「御幸?」


「俺はっ……!」



お前が好きなのに。

そう言って何になる?

コイツが気持ちをあっさりと変えるとでも思ったのか?

このまっすぐしか知らない沢村が?



「…なんでもねぇよ。」

「はあ?」

「…悪ぃ。あんまり張り切りすぎてヘマするなよって言いたかっただけだから」


意地悪な先輩を演じる俺は、お前の目にどう映っている?

沢村の手首から手を解放する。きょとんとした顔をして、俺を見ていた。


「どうしたんだよ、御幸。アンタらしくない」

「先輩が猪突猛進な後輩のこと心配しちゃおかしいか?」

「ちょ、猪突猛進って何だよ!」

「お、意味わかったのか?偉い偉い」

「子ども扱いすんじゃねえっ!」


そうだ。
これでいい。

俺とお前は先輩と後輩以上の関係を作っちゃいけない。

だけど。



「はいはい、お子様はさっさとブルペン行って肩作ってきなさい」

「言われなくてもするっつーの!」


ムカつきに任せてドアは五月蝿く閉まる。沢村の背中が消えていった。


今の俺にはお前にあんな幸せそうな笑顔にさせてやれないけど、この胸にあるのは確かな嫉妬。


いつかお前を降谷の肩越しじゃなくて、俺の腕の中で見つめてやる。



絶対オトしてやるから覚悟しとけよ?








拍手でリクエストを募集していた際にいただいた『降沢前提の御沢で嫉妬』を元に書いてみました!
リクエストしてくださった方、ありがとうございました!
降谷出てきませんが、一応降沢…になっていますでしょうか?

感想等いただけたら喜んでスキップしちゃいます(やめてー)

お題元:Aコース様


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