NOVEL1
□番外編
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「かーずーやー…」
「………何?」
全体量をかけられずっしりと重い。
さすがに辛いのかヘッドホンを取る。そして栄純の背中を退けて、約30分ぶりに彼と目を合わせた。
「栄純?」
わしゃわしゃと髪の毛を撫でてやれば一変。飼い慣らされたネコのようにすりついてくる。
しかし、栄純はさっきとさほど変わらない様子で何も言わない。
コントローラーを持ったまま、じぃ…と一也を見つめるだけだった。
「栄純。何か言わないとわからないんですけど?」
「………何してんの?」
「曲書いてる」
「どんな?」
「最近ミディアムばっかり作ってたから、ハードな曲を書こうかなって思って…」
ふーんと我関せずで相づちを打つ。
お前が歌うかもしれないんだぞ!?と思いながら、一也はゲームの電源を落とそうとしていた栄純を後ろから抱き締めた。
栄純は後ろからは反則だ!と思いながら、バタバタと暴れる。
しかし腰に巻き付いた形のいい腕が解かれるはずもなく。
「ちょ、一也!何すんだよ!?」
「こうして欲しかったんじゃないの?栄純くん」
この男はっ…!
一也が口角をあげた瞬間の息が耳にかかり、ふにゃりと力が抜けた。
「もう一回言うよ?はっきり言わないとわからないって栄純。」
「〜〜っ!」
わざとこうやって弱いところを突いてくるのが、この御幸一也という男の悪い性格の部分であった。
長年付き合ってきているが、そこがどうも好きにも嫌いにもなれない部分で、栄純はとても微妙な気持ちになった。
「…言ったらしてくれんのかよ」
「うん」
本当に一也には敵わない。
彼のこのモヤモヤがすべて一也の思惑通りだとしたら、ものすごく癪だが栄純はどっぷりとハマっていたということになる。
一也は相変わらずニコニコして否、ニヤニヤしていて、栄純は思わず平手打ちが飛び出しそうになった。
しかし、自分のこの欲求不満を満たせるなら、彼の術中にハマってもいいかなと思えてしまうのは、紛れもなく栄純が一也に首ったけだからである。
「さぁ、何なりと!」
あとから一也から聞いた話だけど、実はこのとき作った曲をクリス先輩に見せる期限が明後日に迫っていたらしい。
俺はこのとき知るはずもなかったのだが。
それでもコイツがこうやって求めているのは、一也も俺と同じ気持ちだったんだろうか。
「……後ろからじゃなくてっ」
「ん?」
「っ…一也の顔見たいからちゃんと抱き締めろって!」
「はは、仰せのままに」
広げられるだけの腕だったが、それだけで自分に対する愛の大きさがわかるようで栄純はほんのりと頬を朱に染めた。(そういう風に思ってしまう自分自身も恥ずかしかったのだが)
しかしそれ以上に一也が確かに自分を求めてくれていることに改めて心が熱くなった。
思いきり一也の広い胸に飛び込むと、栄純も腕を彼の背中に回した。
そして息をつく。
「寂しかった?栄純」
「一也がこのところずっと夜いなかった所為だろ!?」
「うん。ごめん」
ぎゅうぎゅうとお互いの体温を確かめるように抱き締める。
それから少し間ができた。
2人の視線がかち合えば、そこから言葉はいらなかった。
そっと一也が栄純の頬を包む。
ふれ合った唇はかさついていて、潤いを与えるために一也は栄純のそれを舐めてから少しだけ食んだ。
「ん……」
名残惜しそうに離れる唇。
それと反対に額をくっつけ合った。
栄純の目が微かに潤んでいる。
その様子にぎょっとした一也は、もう一度強く恋人の肩を引き寄せた。
「寂しいなら言ってよ」
「やだ」
「ったく…」
栄純が一也の前だけで発揮するワガママさに、呆れて溜め息を吐いた。
しかし、そんなむくれた表情をするのも自分の前だけだと思うと、かわいく思えてしまうのは仕方のないことだろう。
小さな風船が入っているような栄純の頬(食べ物が入ったリスのような頬ともいう)をつつく。
「栄純が寂しくならないように、今日ずっと隣にいてあげるから」
「…今日だけかよ」
「ばーか。そんなことねぇよ。じゃあ今日だけじゃ栄純の機嫌が治りそうもないから…手始めにシようか!」
「は!?」
にんまりと計画をたてていたような笑みを浮かべて、一也は栄純を壁まで追い詰めた。
栄純の瞳は微かに涙の膜をはり、更に上目遣いときたからさすがの一也も真正面でそれを見ていたものだから、栄純の制止も聞かず噛みつくようにキスをする。
口唇を離せば、はあ、と艶かしい吐息がもれた。
「ね、栄純」
「…ん?」
「今作ってる歌詞、栄純のこと書いていい?」
「っ勝手にしろよ!」
勝手にします、と一也が相変わらずの表情で言うと、栄純が身に纏うパーカーの裾から、ひんやりとした手を入れた。
読んでくださり、ありがとうございました!
以前拍手でリクエストを募集していたときにいただいた『バンドパロ御沢で甘々』というものを元に書きました。
リクエストしてくださった方、いかがだったでしょうか?時間がかかってしまい、申し訳ありませんでした。
ちなみにその後一也さんが作った曲はクリスさんに却下されました。(放送コードに引っ掛かりそうだったから)
バンドパロ番外編でしたが、書いていてとても楽しかったので、バンドパロアンケートの結果を元にまたチャレンジしてみたいです!
タイトルはAコース様よりお借りしました。