NOVEL1

□番外編
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ギタリストとベージスト
〜僕は歌姫を愛す番外編〜






高校1年──あの日は寒かった。

青道高校3階の廊下は薄暗く、倉持洋一はそれから逃げるように、外の明かりを撒き散らしているベランダにいた。
グラウンドで同じ学年の生徒がやっている体育(ちなみにソフトボールだ)を特に何も考えずに見ているのだ。面白味もないが。
先ほどチャイムが鳴り、授業が始まったなら教室に戻るかと思ったが、そういえば前の時間に委員長が自習になると言っていたことを思い出した。

思わず暖を求めてしまうほどの寒さだと言うのに、ブレザーの下に着ているのは、ワイシャツとタンクトップに近い下着。
このまま風邪をひいてしまうのもいいか、なんて自嘲していたら、自分がこの場所に入ってから開くことのなかったドアが音をたてて開いた。
その方を見れば、立っているのは同じクラスのバスケ部だった。
青道高校の男子バスケ部は、あまり良い実績がない。この学年の部員は彼しかいなく、部員不足に悩んでいるらしい。


「倉持! 今週の土曜にうちの体育館で、練習試合があるんだけど…出てくれねぇ?」

「……いいけど、俺にメリットあるか?」

「っわかったよ! 今回も食堂のランチ3日分でどうだ!?」

「よし、のった!」


倉持洋一は、その運動神経の良さで、部活には所属せずに運動部に限り『助っ人』をやっていた。
サッカーをすればハットトリック。
バスケをすれば100点ゲーム。
バレーをすればストレートで勝つ。
いつの間にか彼の噂は広まり、勧誘はあとをたたない。土日はどちらかが潰れるし、放課後だってないときもある。
最初のうちは喜んでやっていた。しかし、駆り出されるうちにすべてをやり尽くしてしまった。
頼られることは嬉しかったが、勝つことに執着がなかったのだ。
仲間と一緒に何かを成し遂げる達成感というものを味わったことがなかったのだ。
クラスで行動を共にしている奴も、特に決まった人間はいない。常に誰かが話しかけてくれ、友達に困ったこともない。
けれど、彼自身はそんな自分がいやでたまらなかったのである。
一度でいいから、部活に所属し、先輩や同級生たちと何かを成し遂げたかった。

でも今さら無理だろう。
運動部に入ったら、その部活にいろいろ迷惑がかかるし、お堅い文化部に入る気もさらさらなかった。
横でバスケ部のやつ(…名前忘れた)が場所や集合時間を懸命に言っているが、左耳から右耳に抜け、洋一の頭には一切記憶されていない。
曖昧に返事をして彼と別れると、このままホームルームに戻るのも億劫だから。と生徒会の許可が下りれば生徒も使用できる掲示板へ足を運んだ。



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