頂きもの

□逢わねばいいとも思うのですが
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300メートルも歩けば、沢村が通う高校の近くには大きなアメリカンハイスクールがある。
そこは何かと空気や人間の質が違う雰囲気がして、沢村は前を通るたびに少し緊張した。
(本当はこの学校の前を通るのも苦手なのだけど)
だが、1週間前に始めたコンビニのバイトへ行くにはこの学校の前を通るのが一番の近道になり。授業後のバイトに急ぐ身としては、この道を使わない手は無かった。

日本の高校とは違う建物の質感に、ここの学生はどんなことを勉強しているのだろうと沢村は急ぎ足ながら考える。
考えたって沢村はここの学生でも何でも無いのだから、真実はわからなかったのだけど。(古典とか勉強するのだろうか、なんて可笑しなことを真剣に考えた)

だけど、アメリカンハイスクールから出て来る顔ぶれを見ていると何か気圧されているのがわかってしまって。
同じ人間で、同じ高校生なのに。
どこか漂わせている雰囲気が違うのだ。余裕、とでも言うのか、自分には無い外国人特有の大人びた風体を感じて、沢村は少しだけ早足にその場を過ぎようとした。

そんな時。
ドン!と些か強い力で誰かとぶつかった。



「うっわ…!…っ、ご、ごめっなさ…!」

「Excuse……あ、いや、俺こそゴメンな」



滑らかな英語が聞こえてきたと思ったら、言い直した日本語が沢村へと掛かる。

グ、とぶつかった衝撃に転びかけた体をその男が立て直してくれた。
黒縁眼鏡のレンズ越しに見えた切れ長の瞳が殊の外優しく弧を描いたように見えて、沢村はびくりとする。

ネイティブの単語が自然と出てきたところを見ると、彼もアメリカンハイスクールの学生なのだろう。
こんな人もいるのだなぁ、と沢村は無意識に彼のことを見詰めてしまっていて。
二度目の「ゴメンな」を言った男に初めて笑いかけられた。



「っ…!いやっ、えぇと、ダイジョブ…っす!」

「そーかぁ?」

「ハ、ハイ!」

「そんなら良いや。じゃあ、ね」



そう言うと男は友人たちの中に帰っていった。
ハーフのような男に「クリス」と声を掛けている。(多分クラスメイトか何かだと思う)
その内に金に近い茶色い髪が綺麗な女の人も彼に声を掛けて、少しだけ親しげに腕を絡めているのが見えた。
それを見て、沢村は直感的にあの男の彼女だと、そう己の脳が判断を下す。
下した瞬間、やけに胸がズキン!と痛んで、沢村はその感覚にわけがわらかない風体で眉間に皺を刻ませた。



(…なんだ……?)



支えられた箇所に触れてみる。ぶつかった箇所もぎゅう、と握った。
(もうすぐ衣替えだという半袖の制服がじりじりと熱く感じる)

早くバイトに行かなきゃ。
腕にはめた時計を見てみると走ればぎりぎりの時間を針がさしていて。
コンビニの店長はなんだかひどく威圧感のある男で、入ったばかりの沢村にも遠慮することなく厳しく仕事を教えてくるから。
遅刻しでもしたら拳骨一つくらいは貰うかもしれない。(それは回避したい現実だ)

だがそれでも、なぜだか思考と目線は先ほどの男から離れてくれなかった。
(賑やかに友人たちに囲まれ建物の中に入っていく男は一度もこちらを振り返ろうとは、しなかったが)




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