NOVEL2

□爪痕
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「っ…」

「どうした、御幸」

「ん?なんでもねぇよ」



部室で着替えているときだった。
倉持に答えた御幸は何故か嬉しそうに練習用ユニフォームの下の肩甲骨あたりを押さえる。爪と肉の間に微量の血が付いていたから、引っ掻いたのは明らかだった。

みみず腫のように赤く、浮き出たその痕は艶かしく御幸の両肩に刻まれている。しかし傷は今付けられたモノではないようで、先刻御幸が引っ掻いた所為で余計に深くなったらしい。




「青道扇の要、とも呼ばれる天才捕手が小さくても怪我とは…しかもそんなやらしいところに作りやがって!……お前、そろそろ宮内先輩に正捕手の座、盗られるかもなぁ。ヒャハ!」




間違ってもそんなことはねぇな…と心の中で苦笑すると、いち早く着替え終わった倉持が部室を出ていく。まったく同じクラスだってのに、置いてくのかよ。自分が更衣に時間をかけているから仕方がないことなのだけれど。


そう思いながらも御幸はもう一度みみず腫を指でなぞる。指の腹で如何に腫れているかは理解できた。そしてそこに付着した赤い赤い血液。自分の体内のモノであるとはわかっているのに。






もちろん、この傷は自分で付けたモノではない。






“付けられた”モノだ。







恋人である、沢村栄純に。






昨日、部室で事に及んだ2人。
栄純は投手であるがゆえに爪の手入れを欠かさないが、激しかった所為か御幸にすがり付く痕はしっかり付けられていた。



恥ずかしがる栄純だったが、快感を与える度に啼く姿はとても綺麗だったのだ。
(つい求めすぎて、情事後には機嫌を損ねられたのだけれど)



名残惜しいようにまた傷を一撫でしてからTシャツを着て、その上から指定のYシャツを羽織る。


動くと擦れて痛いのだが、その痛さこそが自分と彼との関係を証明しているようで。




嗚呼、やはり俺はアイツに溺れている。






御幸さんのほうが栄純に溺れていると良いなぁ。

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