NOVEL2
□彼方で微笑む姿にさえ、
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彼方で微笑む姿にさえ、目を奪われてしまうんだ
2年B組。
燦々と日が降り注ぐ窓側の1番後ろ。
言わずもがな、青道野球部一軍捕手・御幸一也の席だ。
御幸の手は模範生らしく、シャープペンシルを握り、机の上には教科書、資料集、ルーズリーフのノート。そこまでは完璧だ。
しかし問題はそこではない。
御幸の視線は明らかに授業に向かうものではなかったのだ。教卓に居るまだ若い教師は彼の姿にいち早く気付いていたものの、注意することは出来なかった。
何故なら、御幸一也という男は教師達の中で、ずば抜けて『言いくるめるのが巧い』として有名だったのだ。
例えば今の状況。
真剣に授業を受けているのは3分の1という感じだろうか。あとの生徒は机に突っ伏し夢の中か、携帯電話を弄っているか、音楽を聞いているかの状態。そのなかで御幸だけを注意したとしても
『俺以上に注意したほうが良いヤツ、たくさん居ません?』
と言われるのは目に見えている。生徒達の机が並ぶ床よりも一段高くなった教壇で、教師はわからないように溜め息を吐いて黙認した。
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