NOVEL2
□──それは単なる噂だけど
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Dolce Love Song!
(甘く柔らかに愛唄!)
───It rumors it mere.
響たちの町にはある噂が流れている。つい最近の中身の薄いそれだが、やけに真実味がありやけに近いところに気配を感じるのだ。
その噂の中心の名は──────
「知ってる?また出たんだって!」
「何が?」
「ほら、『血濡れの鸚哥』」
鸚哥(インコ)のようにふわりとした髪の色を、決して自らのものではない血が濡らす。
故に『血濡れの鸚哥』
この噂の中心人物だ。
「なぁ律…」
「なに?」
休み時間後ろの席の律は期待を裏切らずに『バントの技師』なんて本を読んでいた。何年経っても野球だけには熱心なんですね、律さん。と思いつつ、響は世間知らずな質問を投げ掛けた。
「『血濡れの鸚哥』ってなに?」
「………相変わらず噂話には弱いな、響」
「はい五月蝿ぇ。で、何な訳?その不良の通り名みたいなの……」
手元の『バントの技師』を栞を挟んで閉じた律は、ふむと頷いてから、話し始めた。
「そのとおり。『血濡れの鸚哥』は通り名だよ。鸚哥のようにふわりとした髪の色を、喧嘩相手の血が濡らすことからその名が付いた一匹狼。いくら暴走族とかそういう類いのものに勧誘されたって群れるのを拒む。しかも喧嘩に関しては自分からは一切手を出さない。売られた喧嘩は買って、尚且つ必ず勝つんだってさ。知らなかったのか?」
『血濡れの鸚哥』は前から存在していた。しかし、名が有名になりだしたのはつい最近だった。
話し終えると律は恐る恐る響を見た。
今回は彼が聞いてきたから答えたが、響はこういう話を好まない。血、というか喧嘩も嫌いな奴だから。
「……………っは」
「だいじょぶかー響?」
「ん、ちょっとヤバい……っ」
苦手な故に想像してしまう。
自分が描いた絵空事だというのに何故かいつもリアルに感じてしまう。
ゆるゆると立ち上がった響の顔は蒼白で、そしてふらりと教室を出ていった。
律はあとで謝らなければと思いつつ、噂の彼の姿を脳裏に浮かべため息を吐いた。
「どーすんだよ………『血濡れの鸚哥』さんは」
赤茶色の髪の毛をふわりと揺らした鸚哥は、くしゅんとくしゃみをした。