NOVEL2

□桜の季節に抱き締めて
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銀八×高2土方







じゃり、じゃり。
ゆっくりとした足音
誰?なんて確認しない。
ましてや視線を送らなくても俺にゃわかる。


「土方くん」


ほら、やっぱり来た。

上級生の晴れの日に面倒くさいとサボダージュするのは誰しも考えることで、我先にと行動に移した俺は、桜の木が並ぶグラウンドの一角に佇む。

そんな俺の次にサボろうとしていたのは、この声の主だったのだろう。
おそらく他の教師には「生徒が1人、見当たらないので探してきます」なんて嘘を吐いたに違いない。
こういう男なのだ、彼は。

俺の名は、ザアザアと吹き荒れる風にかき消されそうになったが、しっかりと鼓膜を揺らした。
更には口の動きで、ああ俺を呼んだのか。と理解する。

低い声で囁かれるのはあまり好きじゃない。
情事の、余裕のない掠れたそれに似ているから、どうしても胸が跳ねる。
ばれないように、ばれないようにと必死で抑えて耐えた。


「ひーじかーたくーん」


再び届く、彼の名。
同時に吐き出された紫煙は舞い上がろうとするが、彼が歩き出したことにより消える。

土方は無言だ。
素っ気無い反応に口唇を尖らせる。
自分達は一応そういう関係なのだが、と銀色の髪の毛をぐしゃぐしゃに掻いた。


「ねェ、何してんの?」


銀髪が揺れながら土方の隣に立つ。
ダルそうに開いた瞼と、しわくちゃな白衣と、かかとを履き潰してへこんだスニーカー。物臭なくせに手が早い。顔のパーツが整っているだけに、もったいない。
土方はそれだけ考えてから、ようやく口を開いた。


「卒業式出なくていいのかよ、センセイ」

「いいのいいの。直接教えてたわけじゃねェし、知らねェ生徒ばっかりだし」


教師がそんなんでいいのか。
まあ、彼に教師らしいところを求めてもムダなのだが。

すると煙草をくわている口唇の隙間から、クク、と喉の奥で笑った音がした。


「…んだよ?」

「いやァ、そんな眉間にシワ寄せんなって。可愛い顔が台無しになるよ」

「─ッ!?」


砂を吐きそうな科白と共に、冷たくて白い指が土方の頬を撫でる。
吃驚して体が跳ねた。
それもこの胡散臭い教師には笑う要因だったのか、今度は声に出している。

触れられたところが、まるで発火したかのように熱い。痛い。そこからじんじんと土方の全身を侵略していく(ある意味死亡率の高いウイルスだ。死んだらどうするっつーんだよ。その証拠に心臓が暴れだす。反抗期の中学生みてェに触れるもの全部蹴散らかす感じだ。うるさい黙れ。俺に楯突くな)。




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