NOVEL2
□星の葬列
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夢だ。俺は今夢を見ている。夢だからかもしれないけど不思議なもんで、俺はやけに冷静に受け入れていた。
目の前にはカエデ。二人ともどこかの丘にいる。
空を仰げばダークブルーをバックに満月と、満天の星が浮かんでいる。この土地ではこんなに見えないから、綺麗というより気持ち悪いぐらいだ。
俺が顔を歪めて辺りを見回すのと逆に、カエデはカートシーをするようにスカートの両裾を指でつまんで、バレリーナみたいにそれを翻しながらくるくる回っている。
時折、月明かりで左手にある指輪を眺めていた。それを買ってやったときの笑顔と似ている。
「カエデ」
しかし、そう呼んでもニコニコしているばかりで何も答えない。ただ踊って、笑っている。
何なんだこの夢は。わけわかんねー。
ファンタジックな空間は俺が作ったのか?
するとカエデはぴたりと動きを止め、俺を見つめてきた。瞳はきらきらと輝いている。どうやら俺の存在には最初から気づいていたらしい。言葉は聞こえなかったのだろうか? でもやっぱり何も言わない。
それからカエデは自分の手を伸ばし、俺を呼ぶ。一緒に踊ろうよ、とでも言いたいのだろうか。磁石と磁石が引きつくように不思議と足は進む。普段はこんなかわいらしいことをするやつではないのに。おかしいとは思う。けどこれは夢。何があっても不思議じゃない。
しょうがねーな。カエデの誘いを受けようと俺はカエデの左手に触れた。が。
ぷつり、
小さな音。それにしては大きな悲しみが襲ってくる。
ぱらぱらと星屑みたいに地面に散らばっていくビーズ。
指輪が、切れた。
これは偶然なんだろうか、必然なんだろうか。
俺が触ったから? 俺がさっき言うのを止めたから?
見る見るうちにカエデの顔は今まで見たことないほどの悲しみで染まっていく。
「――っ!」
これは鎖なのに。俺とカエデを繋ぐ鎖なのに!
一気に不安の波が押し寄せてきて、咄嗟にカエデの腕を掴んで引き寄せた。――が。
引っ張ったことによってぐらついて俺の胸に凭れてくるはずなのに、その感覚はこなかった。
確かにここにいて、腕を掴んだはずなのに、その温かさは嘘のように消えていたんだ。
瞬く間に消えてしまった。ただ残っていたのは、無惨に散らばった指輪だったもの。
人魚姫の如く泡になるわけでもなく、漫画やアニメのようにきらきらとした砂で風に乗っていくわけでもない。
まるで最初からいなかったと思わせるほどに、存在も何もかもなくなった。
じわじわと襲ってくる寒気。
カエデがいない? 消えた? どこへ? わからない。
苦しい、寂しい、悲しい、切ない、虚しい、助けて助けて助けて―――――
「あああぁぁああぁっっっ」
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