NOVEL1

□──ああ、僕の愛する人よ
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Dolce Love Song!
(甘く柔らかに愛唄!)
───Ah,The person who loves




「央人?」

「………ん、あ、何?響」


大事な放課後に、担任である益岡に来週配る予定のレジュメのホチキス止めを言い渡された2人。

そうであるにも関わらず、呆けていた央人は響の声にやっと我に帰った。

一度パチン、とホチキスを押してから響は右手を彼の額に当てた。



「どうしたんだよ。風邪?」

「風邪だったら即帰宅してますよ〜響に移したくないもん。ただ響は何でそんなにかわいいのって考えてた」

「その口唇、もう二度と開けないように縫ってやろうか」



また1つ、パチンと鳴る。

響のことを考えていた、というのは半分事実だ。けれど半分は違う。

あの時の律の言葉を考えていたのだ。





「響に言えないようなこと、するんだよ」






そんなの、簡単だ。
自分の過去、自分が今置かれてる状況に響を巻き込みたくない。

ただそれだけ。



“愛”だけじゃ表せないほどの愛しさはきっと誰にもわからないかもしれない。

自分だって早く響が苦手とする環境から逃げたいんだ。でも自分自身の過ちは消せなくて。





パチン、





「なー央人」

「ん?」

「俺、今日、律に『血濡れの鸚哥』のこと聞いたんだ」


知ってるよ。
俺も直接律から言ったことを聞いたから。


「最近急に有名になったよね」

「そう。それで気持ち悪くなっちゃってさ。一応央人に報告しとかないと…と思って」


だってお前、保健室に行ったことでさえ言わないと怒るだろ?なんて響は苦笑した。

響にとっては軽く言った言葉かもしれない。けれど、全身の血が抜けていくような気さえした。



「…────ッッ!!」

「央人?」

「っっ…ごめん、トイレ行ってくる」

「う、うん…」



小走りに教室を出た央人。
心配そうに見送る響は、彼の青白い顔に鳥肌がたった。そんな央人を一度も見たことがなかったのだ。

遅刻はするけれど、学校は休んだことがない央人はただの一度も具合の悪い姿を響に見せたことがない。



だから追いかけようとした。

だけどドアノブに伸ばす手は途中で止まる。




「遠くに行かないでよ………央人」







さあさあと流れる水音を、聞かないふりをして、目を閉じる。

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