NOVEL1
□君を置いては逝かないから
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「……篠ノ女っ!?」
「よー。起きたか?」
起き上がるとそこにはやはり篠ノ女。
片手に団扇を持って、もう片手は鴇時に向かってひらひらと振っている。
「ななな何で篠ノ女が!?」
「はは、…お前、覚えてねーのかよ」
「うへ!?」
覚えてねーのかよ!?
え、何、どういうこと!?
俺は夕飯(もちろん篠ノ女の手作り)を平らげたあと、少し休んでいつも通りに風呂に入った。けど疲れたのか出たあとすぐに眠くなって、ふらふらする足取りで部屋に帰った。
でもなぜかいつも寝る前に敷く布団が、既に広げられていて。不思議に思ったのにどうしても眠気に勝てなくて、泥のように寝てしまったのだけれど。
ころころ変わる俺の表情に篠ノ女はくく、と笑う。
「ちゃんと周り見てみろよ。ここは誰の部屋だ?」
「何、言ってんの?ここは俺の…………アレ?」
部屋の角に積まれた古めかしい本。散乱している俺のよりも二回りほど大きい着物。
(あっれ─────…?)
どこからどう見てもこの部屋は篠ノ女の部屋…!
(平八さんとこの長屋も借りているけれど、ここにも一応彼の部屋、というものが存在するのだ)
「えっ!?なんで俺、篠ノ女の部屋に!?」
「馬鹿。まだ気付かねーのか?お前は間違って俺の部屋に入ってきたの。ったく、人がせっかく敷いた布団に潜り込みやがって」
「う、わ………ごめん」
篠ノ女はまったくだ、と言わんばかりにふんぞりかえった。
今の正確な時刻はわからないが、おそらく現代時間で言うと深夜0時ぐらい。襖の外は静寂が流れ、この世界に自分と彼の2人しか存在しないんじゃないかと錯覚してしまうほど。
「そんなに眠かったのか?」
「うん。よくわかんないけど…」
疲れ、かもしれない。
江戸は彼岸とは違いすぎる。
慣れない。
十何年間向こうで生きてきたんだ。
俺たちがいた日本は他力本願で、自分に関係ないことには踏み込まない。
そんなセカイ。
篠ノ女が不思議そうな目で俺を見る。
「鴇?」
「…しののめ、」
でも俺が此処で生きているのは、朽葉や沙門さんのお陰でもあるんだけど、やっぱり篠ノ女が居たから。“特別”な彼が居たから。
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