NOVEL1

□君を置いては逝かないから
2ページ/4ページ

「……篠ノ女っ!?」

「よー。起きたか?」


起き上がるとそこにはやはり篠ノ女。
片手に団扇を持って、もう片手は鴇時に向かってひらひらと振っている。



「ななな何で篠ノ女が!?」

「はは、…お前、覚えてねーのかよ」

「うへ!?」



覚えてねーのかよ!?
え、何、どういうこと!?

俺は夕飯(もちろん篠ノ女の手作り)を平らげたあと、少し休んでいつも通りに風呂に入った。けど疲れたのか出たあとすぐに眠くなって、ふらふらする足取りで部屋に帰った。

でもなぜかいつも寝る前に敷く布団が、既に広げられていて。不思議に思ったのにどうしても眠気に勝てなくて、泥のように寝てしまったのだけれど。

ころころ変わる俺の表情に篠ノ女はくく、と笑う。



「ちゃんと周り見てみろよ。ここは誰の部屋だ?」

「何、言ってんの?ここは俺の…………アレ?」


部屋の角に積まれた古めかしい本。散乱している俺のよりも二回りほど大きい着物。



(あっれ─────…?)



どこからどう見てもこの部屋は篠ノ女の部屋…!
(平八さんとこの長屋も借りているけれど、ここにも一応彼の部屋、というものが存在するのだ)



「えっ!?なんで俺、篠ノ女の部屋に!?」

「馬鹿。まだ気付かねーのか?お前は間違って俺の部屋に入ってきたの。ったく、人がせっかく敷いた布団に潜り込みやがって」

「う、わ………ごめん」



篠ノ女はまったくだ、と言わんばかりにふんぞりかえった。
今の正確な時刻はわからないが、おそらく現代時間で言うと深夜0時ぐらい。襖の外は静寂が流れ、この世界に自分と彼の2人しか存在しないんじゃないかと錯覚してしまうほど。



「そんなに眠かったのか?」

「うん。よくわかんないけど…」



疲れ、かもしれない。
江戸は彼岸とは違いすぎる。
慣れない。
十何年間向こうで生きてきたんだ。
俺たちがいた日本は他力本願で、自分に関係ないことには踏み込まない。
そんなセカイ。


篠ノ女が不思議そうな目で俺を見る。




「鴇?」

「…しののめ、」




でも俺が此処で生きているのは、朽葉や沙門さんのお陰でもあるんだけど、やっぱり篠ノ女が居たから。“特別”な彼が居たから。





.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ