NOVEL1

□左胸が悲鳴をあげている
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車窓から俺を照りつける太陽はとても元気で、とても鬱陶しい。
そしてボックス席に座る俺たちは、無言だ。
────なんでこんなことになったんだ?





「土方ァ」

「………なんスか」


銀色のそれが揺れる。
声をかけられて一瞬躊躇ったのは、眩しかったのとその低音にぞわりとしたのを隠すためもあった。
休み時間の廊下は騒がしい。
この高校だったら尚更だ。


「お前、次の授業なに?」

「坂本の数学だけど。」

「辰馬か…」


ふむ。とあごに手をやり、考え込む。
コイツは自分のクラスの時間割も把握してねェのか…。それって担任としてどうなんだよ?

しばらくの沈黙の後、パチンと指を鳴らす。



「俺さァ、このあと授業入ってないんだよ」

「は?」

「アイツにゃ、俺から言っとくからさ」

「なに言ってんだ、テメェ。つか、HRがあんだろ」


意味がわからない。
でも嫌だと思わない俺がいて。


「だから、海行かねェ?」






窓際に彫られた悪戯書きと古びた外装。ローカル線は早くはないけどその分楽しめる。
時間帯が幸いしてかこの車両には俺たちしかいない。せっかくボックス席に座れたというのに、わざわざ隣に座ってきた担任は、数分前から俺の肩を枕にして寝息を立てている。

そして、何故か左手をヤツに握られていた。


流れる景色は次第に変わっていく。
都会な町並みから潮の香りがし始めた。


窓を開けて、直にその風を感じる。

そうしてやっと肩の重さから解放された。


「…ふぁ」

「寝てんじゃねェぞ、この阿呆」

「先生、最近寝不足なんだぞ。もうちょい労れコラァ」

「寝不足だァ?保健室でいつも寝てる糖尿寸前のぐーたら教師はどこのどいつだ、あァ?」

「いや、マジだから。最近寝れねェの。」

「…──お前が?なんで」

「土方くんのこと考えてるから、かな」



いつもの目と違う。
やけに真剣さが増していて俺を捕えた視線を反らすことが出来なかった。

なんで、なんで、



こんなにも心臓が五月蝿いんだ─────






ガタン、揺れる。
海が見える駅−−俺達の目的地−−に電車が停止した。


「さて、降りるぞ」

「……………」



意識するな。
意識するな。



この鼓動の早さは嘘だ。
海に高鳴らせているだけだ。



そう言い聞かせるのに。







きっとこの名前を意識してしまったら、後戻りさえできなくなるとわかっていたから。

この気持ちは────






「  、」






アイツの口からそれを聞くまであと数分







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