NOVEL1
□不安定ラブロマンス
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「よぅ、沢村」
「あ、……─倉持先輩」
化学室までの移動のとき、知った背中を見つけたから思わず声をかけた。
後輩の沢村栄純だ。
しかし振り向いた奴の顔にはいつもの明るい表情はなく、どよんと沈んでいるように感じ取れた。
ヤツ絡みなんだろうな、と思いつつ眉に皺を寄せた。
「お前…なんでそんな面してんだよ…」
「あ…わかります?」
困ったような、嘲笑を浮かべた沢村が言った。
わかるもなにも…。
お前がそんな顔してたら誰だって気付くだろ。
「で?どうしたんだよ?」
「いや、特別先輩の耳に入れるようなことじゃないんスけど…」
「──良いから聞かせろよ。人に話したほうが楽になることもあるぜ?」
俺は沢村に有無を言わさずに、素早く携帯を開いた。
慣れた手付きで操作して、同じクラスの奴に連絡を取り、上手く言っておいてもらうようにメールを送信した。
「ちょ、倉持先輩!?」
それから沢村の手を無理やり引っ張り、階段を上っていく。
目的地は当然、サボりの定番として定着している屋上。
後ろでぶつぶつと文句が聞こえた気がしたが、そんなこと今は構ってられなかった。
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