NOVEL1

□───The sound of water
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Dolce Love Song!
(甘く柔らかに愛唄!)

───The sound of water




自分がいた教室からはかなり離れたところにある男子トイレ。
央人はそこにいた。

ザアザアと止めどなく流れる水。
央人は蛇口を締めることも忘れて床に膝をついた。汚いとわかっていても、この己の手のほうがもっと汚れているような気がして、溜まった水に肘から下を勢いよく突っ込んだ。



(ごめん、ごめん───響)



謝ってもこの血に染まった髪も、手も清らかになることはないのに。

彼の口からはっきりと『血濡れの鸚哥』についての話で気持ち悪くなったと聞いて、改めて今まで自分がやってきたことがフラッシュバックしたのだ。





チームに入ったとき、
はじめて人を殴ったとき、
はじめて人に殴られたとき、
はじめて手が赤に染まったとき、

ひたすらバイクの改造に金かけて、海沿いの公道とかを走り回った。
今では五月蝿いと感じられるようになったマフラーを外したエンジン音も、気にならないほどで周りの迷惑なんて一切考えなかった。
レディースの奴等からは結構憧れ的な存在だったらしいが、女には興味がなくてナンパ目的で声をかけられても総じて無視する場合が多かった。



しかし高校だけは卒業しようと楽勝で受かった学校で───はじめて響を見た。
瞬間電撃が全身を駆け巡った。

汚れを知らない日本人特有の漆黒の髪と瞳。それに対して生意気そうなつり目と半分だけ残る眉。

そういえば、あの日は桜が咲いてたっけ。

この水の音みたいに桃色の花弁が散っていて、その中で俺は新倉響に出会った。

黒と淡いピンクのコントラストが彼の存在を一層引き立てる。





完璧にノックアウト。

俺の負け、お手上げ状態だった。

ああ、なんて恐ろしい“一目惚れ”








早く戻らないと彼に怒られると理解できているのに、脚が動かない。

目を閉じればまだ修正がきく瞬間(とき)に戻ることができるのではないかと、無理難題なことを思っている僕はやっぱりエゴイストなんだな、と思い知らされた。








君を抱き締めるこの手も、血みどろ。

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