NOVEL1
□─It falls in love glancing
1ページ/1ページ
Dolce Love Song!
(甘く柔らかに愛唄!)
───It falls in love glancing.
「…はぁ?」
漆黒の空と、相反するような白いヘッドライト。
地面をも揺らすマフラー音を生み出している愛車たちに囲まれながら、『血塗れの鸚哥』は倉庫の壁に背中をあずけた。
真夜中でも目立つテールランプのような赤。
そんな髪を持った『憐華(れんか)』のトップ・百坂龍一郎(ももさかりゅういちろう)は自分のチームの特攻隊長が発した言葉を聞き返す。
「だーかーらぁ、一目惚れしたんです」
「一目惚れ…ってお前が!?」
「そう、俺が」
龍一郎は央人が女には興味がないと知る、チーム唯一の人物だ。故に目玉が飛び出るのではないかというぐらい驚いていた。
「…っそうかよ。んでお相手は?」
このチームの最年長者でもある龍一郎。
腰で履いているジーンズのポケットから緑のマルボロの箱を取り出した。
彼の率いる『憐華』自体は少数精鋭だが、傘下にいるいわゆる舎弟は数えきれない。
もちろん特攻隊長・央人にも「央人さん」と慕ってくれる仲間がいるのだが。
紫煙を燻らせる龍一郎は央人の返答を待つ。
「同じ、ガッコーの子」
そうぽつりと溢したときの柔らかい表情を見た赤は、口唇でくわえていた煙草を無意識に落としてしまった。
「モモさん、煙草落ちましたよ?」
「あ、……あぁ」
革の靴がぎゅとまだ3分の1も吸っていないそれをすりつぶす。
『血塗れの鸚哥』がかつてこんな顔をしたことがあったか。否、ないだろう。
メンソールの慣れ親しんだ香りを鼻孔に残しつつ、もう一本を箱から出す。
2人の間にジッポの火をつける音がなった。
「かわいい?」
「………めちゃくちゃ」
もうこれ以上ないってほどの微笑み。
あの『血塗れの鸚哥』がねぇ、と口から紫煙を吐き出した。
しかし。
いくらこんな容姿の央人だからといっても、此処じゃ一端の不良。しかも名の通った。
その央人が一目惚れしたという子が、もし『血塗れの鸚哥』を知っていたら。
もし『俺達がやってきたこと』が“キライ”だったら。
「お前はどうすんの?」
「……それは」
その龍一郎の問いかけの意図が理解できたからこそ、央人は視線をバイクに移した。
『血塗れの鸚哥』を象徴するオレンジのボディを纏った愛車。
ここまで手掛けたから故の愛着。
──手放すことはチームをやめること。
そっとひと撫ですると、口を開いた。
「モモさん、」
「あ?」
「もしこの先、そのときがきたら、」
央人をチームへと誘ったのは当時高校を卒業したばかりの龍一郎だった。
本当の弟のように世話を焼いてくれた。良いことをしたときは褒めて、悪いことをしたときはやり方は酷かったが、叱ってくれた。
そんな龍一郎には悪いけれど────
「もしそのときがきたら…俺は『憐華』を抜けます。」
夜は必ず明けるだろう?
俺にとっての朝日は名も知らないあの子。
鸚哥は黒に恋をしたのです。