NOVEL1

□砂糖より甘いくちづけを
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10月31日。

3年が引退して初の公式戦である秋大会も先輩たちが残してくれた歴史を傷つけることなく、無事終了した。
今の季節、全国の高校球児は春に向けて調整に入る。
もちろん青道高校も例外ではない。

新体制が整いつつあり、3年の全員と監督が満場一致で決めた新キャプテンである御幸は、今日が世界的に何の日だかも忘れ、いつものように教室でスコアブックを眺めていた。

窓側の席は、当然ながらすきま風が容赦なく捕手の大事な肩を冷やす。
そういえばこの間実家から送られてきた冬物の服が詰められた段ボールに紺色のカーディガンが入れられてたような…。明日から着よう、そう思いスコアブックを閉じる。

今日は室内練習場で、投手陣の調整をする予定なのだ。

来年の春は確実に川上、降谷、沢村の3人で投げる。今年は層が薄かった所為や丹波さんの不調もあったから降谷を上げたけれど、今の1年を越えられる逸材かは誰にもわからない。

まだまだ降谷にも沢村にも覚えさせたいことはたくさんあるし、川上にはサイドスローの良いところをもっと磨いてほしいのが本音だ。

さて、と担いだ黒と白の格子模様のリュックは人並みより重い。今日は数学の宿題も出されたし、スコアブックも入っている。

同室の先輩はもうすぐ大学の面接が迫っているのだ。邪魔はしたくない。だから今夜は推薦で進学が決まっているクリス先輩の部屋にでも泊まらせてもらおうか。

なんて考えつつ廊下に出れば、教室とはまた違った寒さ。
御幸はゆるめていたネクタイをしっかりあげる。
まあ運動部連中は部活が始まってしまえば温かくなるのだから、あまり関係ないけれど。

休み時間にクラスの女子からもらったキャンディーを口に含むと、広がるのは眉を寄せてしまいそうなほど濃厚なミルク。
そのとき何故か脳裏に浮かんだのは、甘党な後輩兼恋人であった。


(あいつはもう部室にいるのかね…)


きっとこのキャンディーをあげたら喜んだだろうに。食べなければよかったかな。

アイツの繰り出す七色のナチュラルなムービングボールのように、ころころ変わる表情は見ていて飽きない。
それも御幸が沢村のことを好いている理由だ。(嫌いなところもあるけれど、全部引っ括めて沢村が好きなのだ、この男は。)



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