NOVEL1

□紙ヒコーキにラブレター
1ページ/1ページ


青道高校は現在、テスト返却期間中だ。
沢村栄純は意気揚々と生徒玄関を出、寮に向かう途中であった。
さて、なぜ意気揚々なのか。
実は今まで受けていた現国のテストの点が思ったよりもはるかに高かったのと、その授業がいつもよりも早く終わったからだ。
金丸によくやったと誉められた所為もあるのか、足取りはとても軽い。
今にも鼻歌まで歌ってしまいそうなほど、栄純は舞い上がっていた。

これをクリス先輩に報告したら、もしかしたら誉めてくれるかもしれない。いや、もうすでに金丸から彼に告げられたかもしれない!

こんな気持ちが得られるなら、きちんと勉強するのもいいなぁと誇らしげに笑いをふくんだ。


「沢村?」


ふと後ろから声をかけられて振り返れば、片手をあげた先輩──御幸一也が立っていた。いつもの帽子がないせいか、栄純は少しだけ違和感を感じた。


「御幸…アンタも早く終わったのか?」

「まーね。お前テスト返ってきた?」

「おう!すげー結果が良くてびっくりしたぜ!」

「へえ。見せてみ?」


鼻高々にバッグから出した答案用紙。
へへん、と得意満面に御幸に突きつける。

しかし。


「…おい沢村。これが一体どこが良い結果なんだよ」

「はあ!?今までの俺の最高得点に文句つけんのか、お前!」

「文句つけるも何も………43点って…」

「うるさーい!赤点じゃないから良いだろ!?」


まあ確かに。
でもいくらなんでも高1のテストで43点って…!
しかもこれが最高点って…!
御幸はわざとらしくため息をついて、栄純のテストを手にしたまま歩き出す。
栄純もそれに続いた。


「お前さ、どうやったら現国でこんな点取れるんだよ?国語なんざ文章の中に答え書いてあるようなもんだぞ?」

「………はい」

「赤点取らなかっただけは誉めてやるけどよ」


肩にかけるスクールバッグから筆記用具を取りだし、答案用紙になにかを書き始めた御幸。
栄純がその様子に気付いて覗き込もうとしたが、そのまえに書き終わってしまった。


「あの金髪一年に勉強教えてもらうのも良いけど、たまには先輩も頼れよ」

「でもアンタも自分の勉強があるだろ?」


倉持先輩は一夜漬け派らしくて、夜遅くまで机と仲良ししてるけど。と続けると、御幸は高らかに笑う。


「テストなんざ授業中に寝てなきゃ出来るぞ?それに倉持にとって先生の話は子守唄みたいなもんなんだ、たぶん」

「ふーん…」


倉持もあれでいて要領はいいから、点自体は悪くないけどね。ま、本人もそれをわかっててやってるんだろうけど。
なんて思っていながら歩いていたら、青心寮の前に着いてしまった。


「御幸、いい加減テスト返せって───あぁああぁあ!?」

「あ、わりぃ」


つい癖で。
と呟いた御幸が持っていた栄純の現国のテストは何故かいつの間にか紙ヒコーキに変身していた。


「てめっ…!なんで紙ヒコーキなんか折ってんだよ!!」

「わりィ。今、クラスん中でコレ作んのがブームなわけよ。」


流行ってるのが紙ヒコーキって何なんだ!と栄純は自分のテストを彼から取り上げようとしたが、10センチほどリーチがある御幸からそれは奪えない。


「まあまあ。せっかく作ったんだしよ。飛ばしてみようぜ?」

「うぬ……」


しかし、見れば見るほどよく出来た紙ヒコーキ。
意外にも御幸一也という男は器用らしく、見た目からしてもどこまでも飛んでいきそうだ。


「お前そこにいろよー?」

「おー」


制服姿の御幸は何故か新鮮で、試合のときのあの真剣な目付きは別人のようだ。
そして今の彼はとても子どもじみていて、思わず目尻が下がってしまう。


数メートル先に行った御幸は、まるで2塁へ送球するように(この場合はボールではなくて栄純のテスト─しかも紙ヒコーキになってしまった─だ)構えてゆっくりと右手から白が離れていく。

ふわり。
風に乗った紙ヒコーキは弧を描いて栄純の胸をトン、と突く。


「…っすげー!」


栄純が素直にもらした声に御幸が笑った気がした。

やっと手に戻ってきた自分のテストは最初より折り目がついてしまったが、そんなことは気にならない。

しかしただの紙切れでもテストはテスト。そっと破らないように折り目を直していけば、43点という赤い文字。



「沢村ー!」

「ん?」

「裏見てみろよ!」


裏?
もちろんこのテストのことだろう。
栄純は、裏には何もないはずだと思いながら捲った。



「……っっ御幸ぃいぃい!!」

「はっはっは、紙ヒコーキがラブレターなんて粋だろ?」

「っテメェ…!!」


さっきペンで書いていたのはこれだったのかよ!

粋とかそういう問題じゃねぇから!


「俺が頑張って取った43点を!」

「もっと貴重になったじゃねぇか。よかったな!」



まだ笑っている御幸に食って掛かるが、栄純は耳まで赤く染まっていてあまり説得力がなかった。





現国のテストの裏。
御幸がそこに書いたのは『好きだ』の3文字。









高校生ってくだらないことにハマりますよね(笑)

お題元:Scape


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ