NOVEL1

□どこに居たって会いにいってあげる
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足立につられて副会長なんて大変そうで目立つ役職を任されてから、なぜか俺はちょくちょく呼び出されることが多くなった。

そして、今日で通算8回目の呼び出し。

もちろんそれは悪いものではないし、むしろ男なら誰だって嬉しいことだ。

でも今、俺はきちんと恋人と呼べるヤツがいる。
そいつは強がりな性格で独占欲が強いし、あんまり泣かねぇし、喧嘩強いし、今まで付き合ったヤツに比べたら扱いにくい部類。


それでも俺が別れねぇのは和泉がすきだから。







どこに居たって会いにいってあげる







「これ読んでくださいっ!」

「だから、俺には付き合ってるヤツが…」


いるってさっきから何回言えばわかるんですか。
目の前で頭を垂れるのはひとつ下の学年のネクタイときれいな金茶色の髪をもった、姫路と同じくらいの背をもった子。

こっちの困った様子なんてお構い無しにずずいとその可愛らしい封筒を差し出してくる。

校舎裏の焼却炉。
そういえば1年最後の日にここから足立が投げたボールが職員室のガラス割って、2人して逃げたんだっけ。
あーあのころが懐かしいなぁ…。



「あのっ!読むだけで良いんです!」


まだいたのか。
なんてこの子が聞いたら泣いてしまいそうな酷いセリフを心の中で吐く。



「お願いしますっ…」

「わかったわかった!読むだけだからな。」

「はいっ!」


嬉しそうな顔をしてスカートを翻す。
校舎の影に消えていく小さな背中を見つめながら、手元に残った桜色の手紙に視線を落とす。


はぁ…これを見たらアイツがなんていうか。




「なに百面相してんだ、バカ」

「あ!?」


急に降ってきた知っている声に思わず出どころを見回して探す。

バッと上を向けば、紫煙を燻らす和泉岳。

窓から頬杖した顔を出していて、明らかに眉間にはシワが寄っていた。



「お前ッ!いつからいた!?」

「『だから、俺には付き合ってるヤツが…』んところ?あの子は気付いてなかったみたいだから大丈夫だろ」

「そういう問題じゃねぇ…」


俺はスラックスのポケットから煙草を取り出す。
しかし、中は空。
小さく舌打ちをすると赤いパッケージをくしゃっと握り潰した。

その行動に和泉は嘲笑った気がした。
こいつが俺に一本差し出してくれるはずもなく、2階からは灰色の煙が上へ上へと上っていた。



「……お前さ、俺が告られてて何にも思わなかったのか?」


そこから見ていたなら、あの子が言っていたことなんてまる聞こえだろう。
しかもここはコンクリートの壁に囲まれているのもあるのか、意外と反響する。



「別に。男が女に告られるなんざ、普通だろ」


和泉の言葉の裏には俺達の関係がフツウジャナイという意味があるような気がして、俺はきつく拳を握りしめた。


「普通、か?」

「普通だろ」


2階の窓枠で煙草の火を押し消して、俺のいる校舎裏に投げ捨てる。
それは俺のすぐ横を通って空しく落ちた。

そして和泉は踵を返した。



「っオイ!」




確実にあいつは逃げた。
歩きだす瞬間の、あの表情。
言いたいことがあるのに言わないで自分の中で押し殺す。


ただ、今アイツをひとりにしたくなくて。



地面を蹴った。
適当にポケットに突っ込んだくしゃりと歪な形にしてしまった手紙に、そして何度も何度も書き直したであろう金茶色の髪の子に謝る余裕なんてなく。



一心不乱にあの黒髪を追いかけた。




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