NOVEL1

□ただ、君と一緒に居たいだけ
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高校のとき、冬休みで実家に帰省する俺にアイツはこういった。駅前に薄く積もった雪に長野はもっと降っているんだろう、と笑って。


「今はクリスマスも、正月も一緒にいられねえけど、卒業したらどっちもお前と過ごしたい」


クリスマスはケーキを2人で囲んで、正月は2人で作ったおせちを食べて。きっと大半は俺が作るんだろうけど。でもそれでもアイツが隣にいてくれるなら。
そんなのを夢見ていた。
御幸が就職してから数ヶ月経ったとき、一緒に暮らそうと言ってくれた。

だからやっと叶うんだと、一緒にいられると。思っていた。



ただ、君と一緒に居たいだ





「ん……?」


まだ寝たいと身体にアピールする脳を無理やり覚醒させて、沢村栄純は周りを見渡した。
時刻は夜。マンションの窓ガラスから射し込む光はないに等しく、厚い雲が月と星からのきらびやかさを遮っていた。記憶が途切れる前のそれはオレンジに染まっていたのに、今は雪でも降るかのようにシンと静まり返っている。
今まで突っ伏していたダイニングテーブルの上には、大学の冬休みの課題が。栄純の苦手な数学である。最初の基本的な公式を使った問題にのみ答えが書かれていた。(それが合っているか間違っているかはわからないが)

そうか。寝てたのか。
と思いながらおおきく伸びをして、闇に覆われそうなキッチンの灯をつけてから、テレビの電源をリモコンで付けた。


(唐揚げぐらいは作らないと。クリスマスだし。)


パッと液晶に映ったのは、テーマパークのクリスマスイルミネーションの特集だった。色とりどりの電飾はとても眩しい。そしてきれいだ。


「今年は1人…」


呟くと更に寂しさが増す。
去年の今日は、地元の友人と遊んだり家族といつもより手の込んだ母の料理を食べたりした。
それでも物足りなかったのは、やはり自分の横に御幸がいなかったからだろうか。
だからこそあの言葉に胸をときめかせていた。だからこそ2人で過ごせる日を、待っていたのに。

栄純は筆記用具をしまい、ルーズリーフとテキストを閉じる。


『ごめん、栄純。仕事が長引いちゃって…今日帰れないかもしれない。本当にごめん! やっぱり休めば良かったな…』


携帯電話に着信があったのは、このテキストを開いてから数分後だった。
通話ボタンを押したときから多少悪い予感はしていたから、怒鳴ろうと思ったが、電話口から聞こえる恋人の本当に申し訳なさそうな声に、何も言えなくなった。

だから、今年のクリスマスは1人。

栄純はテレビの中で、リポーターしているお笑いコンビの賑やかさに、いささかイラッとするが、電源を切ることで遮断した。
誰か家に招待しようかとも思ったが、こんな師走の月末に、今さら連絡をしたって誰も予定は空いていない。高校の友人・先輩も、大学の友人たちだって。

「ケーキ買ってきてやるから」と今朝、笑顔で玄関を出ていった御幸は、果たしていつ帰ってくるんだろう。
今年の12月25日は、たぶん数時間しか一緒に過ごせなくて。そんな短い時間だっとしても、俺は2人でいられることに幸せを感じるんだろうけど。

それでも、そうだとしても俺はあの身体に包まれていたくて仕方がないんだ、御幸。
だいじょうぶ。来年は絶対過ごそうな、なんて言えるほど俺は強くなんてないよ。



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