NOVEL1

□Bitter or Sweet
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アイツは、勝手に先輩のプリンを食う非常識。それにプリンだけには止まらず、ヤツは普通に苺ミルクでメシを食うらしい(小湊弟から言っていたから確かだ)
要するに甘いものには目がないってことで。


アイツは極度の甘党だ。


つーかあんな甘いモンを飲める時点で味覚がどうかしてる。
俺に言わせりゃあ、あんなもんガキが飲む桃色の牛乳。

すなわち奴はガキ。





「…また飲んでやがるし…っ!」


青心寮1階5号室。
ドアを開け放った途端、鼻孔をくすぐったのは甘ったるい苺の香り。それを好むのは、この部屋でただ1人───沢村栄純しかいない。

思いがけず、取り巻く匂いに対抗するために手に持っていた缶コーヒーをぐいっ、と喉に流し込む。


「苺ミルク批判はよくないです、先輩。怒られますよ?」

「誰にだ…」

「…信者の皆さん、とか」


苺ミルクに信者が居んのかよ!?
強いと思っていたコーヒーの芳ばしい香りは、案外容易く苺ミルクにかき消されていた。


「倉持先輩はアクエリかコーヒーですよね」

「大体な。甘いモンはあんまり好きじゃねーし」

「…ブラックって美味しいんですか?」

「は?」


からり。
窓を開ける。
初夏の、でも梅雨が明けたばかりだからか少しだけ湿気を含んだ風がゆっくりと室内の空気をかき回した。


「お前、飲んだことねぇの?」

「飲むときは砂糖4杯…」

「ぶっ!?」


砂 糖 4 杯 !?


「あとミルクもちょっと…」


………ありえねぇ。

どんだけ甘いものが好きなんだ。
つーかそれ、もはやコーヒーじゃねーよ。コーヒー味の砂糖だよ。
そのうち糖尿病にでもなるんじゃね?

ん?
ちょっと待てよ?


「…………」

「倉持先輩?」

「飲んでみるか?ブラック」

「!?」


今の俺の顔はサイコーに良い笑顔のはず。なぜならたった今、スゲーおもしろいことを思い付いたからだ。


「そんなに気になるなら試してみれば良いだろ?」

「っやだ! その顔は絶対何か考えてるだろ!」

「お前さ、何回言えばわかんの? 先輩に対するタメ口はご法度だって言ってんだろ、ヒャハ!」

「………じゃあ何考えてたんですか」


じと目で見られるが、そんなの痛くも痒くもない。むしろ“かわいい”なんて同じオトコに思ってるぐらいだ。

もしかして俺、重症?

なんて1人で笑みをこぼしていると、沢村は不思議そうな表情で俺を見上げる。


「倉持先輩?」

「…増子さんが戻ってきてもおかしくねぇ時間だ。さっさと済まさねぇとな」

「へ?」


最後の一口を含んでから、細い腰を引き寄せて、顎を掴む。

沢村のでっかい瞳には俺しか映ってなくて、それだけで優越感を感じられる俺は


(ああ、やっぱり重症だな)


そしてこの香りを分け与えるように唇を落とした。




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