NOVEL3

□発情期ってやつですか。
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「倉持、お前、スゲー顔怖いけど」

いつもは倉持から御幸の席に来るのだが、この日だけは逆だった。

眼鏡の奥の瞳を好奇心で満たせながら御幸は彼のシワの寄った眉間を人差し指でつつかれる。


「…テメェ…黙れ」


ようやっと出た声は少しだけ掠れていて、御幸はアレ? と思い、いくらか顔色の悪い倉持を見つめた。

彼はというと舌打ちをして、落ち着きがなくしきりに指を鳴らす。


「お前さー…」

「あ?」

「もしかして欲求不ま、げふっ」

「…御幸ィ…正捕手の座、宮内先輩に渡す覚悟はあんのか?」


その台詞イコール『テメェもうボール捕れなくするぞ』の意。

御幸は、鳩尾をさすりながら笑いつつ、わりぃと謝る。
いくら御幸とはいえ、機嫌の悪い倉持と喧嘩でもしたら負けると理解している。しかもそんなことしたら連帯責任で野球部自体が公式戦出場停止になってしまう。

完全にお手上げ。
白旗をあげた。



「でもマジでなんなの? 朝はそんなでもなかったじゃねーか」

「まぁな…」

「ってことは、だ。…もしかして沢村となんかあった、とか?」

「……───はぁ」

「はっはっは! 図星か」


苦笑した御幸に一歩遠巻きに見ていた女子生徒がきゃあと黄色い声をもらす。

普段は気にもとめないそれが今日だけはうざったくて、なにも考えずにそちらを睨んでおいた。
そうするとやっと静かになり、自分達の回りには壁が出来たように静まり返った。

御幸は倉持の前のイスを寄せる。
そして向かい会わせに座れば、こう言った。


「あの天然ボーイがどうしたんだよ」

「…それ、テメェが言うとキショイな」

「五月蝿い。……で?沢村は何をしでかした?」

「はぁ…。アイツ、今日も朝からランニングに出掛けたらしくて、偶然俺も目ェ覚めたら一緒に付き合ってやって…」

「普通だな」

「いや、問題はこの先だ。──あと10分ぐらいで朝飯ってときに暑いって言い始めて、水道まで行った。そしたら…、あの野郎全身に水ぶっかけやがってッ…!!」


今でも鮮明に瞼の裏に貼り付いてる、水の効果か太陽の光できらきらと輝くような。


「んで沢村にぞっこんらぶな倉持クンは欲情しちゃった、と」

「…──ッ。お前だって我慢できねぇだろ、そんな好きなヤツが目の前で水で透けたTシャツ着てんだぞ?」

「まぁね…つーかその場合、そこでもう襲うよな」

「…いや、さすがにそれはねーけど。」


実際は手が出かかっていたことは俺だけの秘密だ。でも、もし御幸が俺の立場だったら今ごろコイツは真っ最中。
あーやだやだ。
ヤツと付き合ってんのが俺でよかった。


「お、アレ沢村じゃね?」

「………」


よりによってこういうときに体育なんてやりやがって……。

グラウンドで駆け回る沢村は、俺のもやもやした感情も知らず、あのきらきらしやがる笑顔を振り撒いていた。


「チッ………、」


ガタン、と席を立つ。

あーめんどくせぇや。
そもそも我慢してるのが俺の性に合わねぇだろう。
だったら、


「御幸、次の英語、適当に誤魔化してくんね?」

「はいはい。貸し1つな」


今なら場所とかどこでも良くて。
無性にアイツを抱きたい。
それしか頭になかった。





無理矢理ってのも悪くねぇし、快感に啼くアイツも見てぇ。



(お前が悪いんだからな、沢村ァ…)









見掛けによらず真面目な倉持先輩が好きです。
一応このあとは体育館倉庫に連れ込ます。
ドSな倉持先輩ですから、きっと啼かせまくりますよ。きっと。



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