NOVEL3

□きみにこの気持ちが伝わるように
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授業間の短い休み時間は、廊下に同じ服を着た生徒がごった返し、ざわめきが支配する。
しかも季節は夏であり、いくら青道高校と言えど廊下に冷房が付いているはずもなく、むわりと蒸し暑い空気が流れていた。

行き交う人の波に身を任せながら進むのは栄純である。
小脇に化学の教科書とノートを抱えて、これから理科室へと移動するのだ。
上履きとリノリウムが擦れあい、まるでバスケの練習(あるいは試合)を連想させるキュッという音。

前の時間、ぐっすりと寝てしまっていた彼は、あと数分の休み時間の内に理科室へと到着すべく、小走りで進んでいた。

まったく。
金丸の奴も起こしてくれればいいのに…。
と、木の実を頬張ったリスの如く頬を膨らませた。
当然ながら金丸が栄純を起こさなかったのは〈自業自得〉だからであるが、栄純が知るはずもない。

段々と生徒の波が退いていった。
栄純はハッと青い顔をし、小走りから全力疾走へとギアを変更した。
もう、このまま2年の教室を避けて行っても遠回りなだけだ。
目的の教室は2年の階の端にある渡り廊下を歩き、すぐ目の前にある。

栄純がその階を避けていたのは、言わずもがな。
厄介な先輩2人が同じクラスであり、自分の姿を見つけるやいなやタイキックだったり、抱きついてきたりと散々な目にあったことがあるからだ。(最初のころに警戒心なく突っ込んだのが仇となった)
というか、まだタイキックは我慢できるけど、あの眼鏡の先輩が自分に仕掛けてくる甘ったるい雰囲気にムカムカしてくる。
一応?付き合っている?という関係ではあるが、誰が見ているかわからない校舎で、恋人モード?を漂わせるのは如何なものか。
はっきり言って、野球部のみんながいるところでやってくれたほうが少しはマシだ。(そりゃあ、やってくれないほうがいいけれど)

しかし、今はそんなことを言っている場合でもない。
チャイムは今にも鳴りそうで、秒針は機械的に進んでいく。

(…ッ、間に合うためにはココしかねーんだ!)

大丈夫。先輩たちももう教室に入ってる!たぶん!
そう己の予感を信じて、一歩を踏み出す。
そう。擬音をつけるならば、まさにズンズンである。

人は疎らとなり、数えるほどしかいなくなった。

授業開始の数分前は先生とすれ違う確率が高いのか全力疾走はやめ、できるだけ大股で、できるだけ早く、無心で足を進めていく。
今、すぐ左手にある教室は2年D組。
あと2教室越えれば、この緊張は解れるはずだし、もうチャイムが鳴ったとしても先生に謝れば、なんとかなる!気がする!


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