NOVEL3

□夜色クラシック
1ページ/1ページ


急に電話がきた。ブーブーとうるさいバイブレータを、先輩が起きないうちに早めに止ませようと充電器に繋がりっぱなしの携帯を掴む。冬はやっぱり寒くて、布団から手だけ出した。携帯もやっぱり冷たくなっていて、指先からぞわぞわっと冷たさが走っていく。俺の肌でいくらか振動は軽減されていた。それでも誰もが寝静まった時間に聞くとなるとやかましい。サブディスプレイには後輩の名前が表示されていて、俺の口許は自然に上がっていた。
告白してから数日が経っていた。「好きだ」と伝えると予想通りに慌ててオロオロしはじめたアイツは、少なからず俺を恋愛対象として見はじめたようだ。
その後輩が、今、俺に電話をかけている。


「、もしもし?」

「あ、えと、御幸、?」

「お前なあ……こんな時間にかけてくんじゃねーっつの。エースになれねぇよ?」

「起こした?」

「うん、完璧に」


向こうでため息を吐く音がした。それにしてもコイツは今、どこにいるんだ?ため息の他にまったく音が聞こえない。コイツの同室の先輩は確か豪快にイビキをかく人のはずだ。


「お前、今、どこにいんだ?」

「え、今?」


そのとき耳に入ったのは救急車のサイレンだった。携帯をあてているほうの耳からもそれは入ってきたが、携帯から聞こえた音のほうがいくらか鋭い音だった。チッ、外かよ。アイツまじでありえねえ!俺はすばやくベッドから下りてジャージの上からもう一枚ジャケットを着込む。それとあと一枚。おそらくこの寒空の下で寒い思いをしているだろう、意中の相手に。


「それよりさあ、御幸ぃ」

「なんだよ」

「誕生日おめでとー」

「……は?」


誕生日?もう日付が変わっているから昨日の日にちを思い出す。あ、そうか。今日って俺の誕生日か。忘れてた。つか、コイツ誰に聞いたんだよ。倉持か?倉持しかいねえよな。あーあとでなんか請求されそう。でもグッジョブ!携帯の向こうで「倉持先輩が」とゴニョゴニョしながら言っている。やっぱりな!
やべーまじ嬉しい……。これ以上好きにさせてどーすんだコイツ。ったくもうかわいすぎるだろ。


「お前、今、どこにいんだよ?」

「え?」

「外だろ?」

「うん、自販機んところ。」

「今行くから」


まじアイツ投手ってことわかってんのか?体冷やすんじゃねえっての!
でも、でもでも!それ以上にコイツが一番に祝ってくれたことが、嬉しくてたまらなかった。


「沢村ぁ、」

「な、なに!?」

「俺が行ったら、キスさせろよ」

「えぇえ!?」


お前に拒否権ないから。そう言い放って、通話を終える。

俺をここまで落とさせたお前が悪いんだろ?なんて口角を上げてみせたりして。

でもきっとアイツもアイツで、俺に気がなかったらこんなことしないんだろうし。
ってことは期待していいんですかね?沢村くん。


もう一度アイツ用のジャケットを抱え直して、俺はコンクリートを蹴った。










御幸さん冬生まれという設定で書きました。キスが誕生日プレゼントになるんでしょうねvvなんてvv

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ