NOVEL3

□キラキラスパンコールの海に沈む
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「一也!早くしろよ!」

「…はいはい」


栄純と一也の休みが重なったある日。重なったというより、一也が栄純の休みを聞いてわざわざ重ねただけの話なのだが。しかし久しぶりのデートに栄純がそれを咎めるはずもなく、2人は買い物に繰り出したのだった。天気は快晴。空を仰げばスカイブルーが広がっている。まさに買い物日和だ。
一也は駐車場に停めた車(といっても一也のものではなく、クリスの車だ。彼は今日予定がなく、快く貸してくれたのだ)から出ると、子どものようにはしゃぐ栄純を追いかけて並び、2人は歩き出した。ほうっと息を吐けば白く染まったそれが上へと昇っていく。今日は平日だから比較的街は空いている。学生も歩いている時間じゃないから2人を見て反応する人はいなかった。


「で、何買う?」

「まずはアンプな」


そう。今日の目的は栄純が踏んで壊したタバコ型の小さなアンプを買うこと。一也が使ってそのまま床に放置していたことが原因なのだが、栄純がレコーディング室でおもいっきり踏んづけてしまったのだ。しかし一也は壊れてしまったアンプではなく栄純の足を心配した。壊してしまった本人はそんなことよりアンプのほうが心配であり、2人で謝ったりしていたのだが、新品を買うときに栄純が値段の半分を払うことで落ち着いた。ちなみに栄純の足は何ともなかった。
BDメンバーが贔屓にしている音楽用品店は街中の一角にある。一也のスモーキーアンプもここで購入したものであり、この店はピックやステッカーなどデザインもしてくれるというから、とても便利なのである。


「あとはー、クリス先輩が五線譜がないって言ってた」

「じゃあそれも買ってくか」

「うん」


茶色く模様替えした桜の葉はもう落ちてしまい、歩道は葉のじゅうたんで埋め尽くされている。2人はしゃくしゃく、とそれらを踏みしめながら自然に当たり前のように手をつなぐ。周りに誰もいないから、ということもあるだろうけれど、こういう2人の時間を手を繋ぎながら過ごせることに栄純の胸がキュンと跳ねた。


「そういえばさ、昨日降谷からメールが着た」

「へえ、あいつ何だって?」

「『食パンがこげたんだけど、これ食べれると思う?』って写メつきで」


ほら、と栄純が件のメールを開いて一也の目の前に出す。液晶には普通のメールの画面なのだが、添付されているのは丸コゲになった食パンの写真。それを見て、一也はブハッと吹き出した。声高らかに笑うもんだから、遠くにいた鳩が驚いてバサバサッと羽ばたいていった。


「はっはっは!!まじで降谷のやつ、バカ!で?お前は何て返したんだ?」

「俺はねー、……んと『まずそう!お前まさか食べようとしてねーだろうな!?』って。何かアイツ、普通に食べそうで怖くね?」

「確かに……」

「それから返ってこねえからわかんねーんだよ」

「はは、食ってたらウケるよな」


しばらく2人で笑い合っていると、少し暗い路地が見えてきた。暗いといっても全然怪しくなく、店に行くにはこの道が近道なのだ。


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