NOVEL3

□理由はぜんぶ“好きだから”
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季節は冬。夕方ともなれば雪が降りそうなほど寒さは厳しくなる。息を吐けば白く染まり、天に昇っていく。空を仰げば、灰色の雲が重苦しかった。
栄純は指先に息を吐きかけながら、街中の行き交う人を眺めていた。

倉持からメールが着いたのは1週間前のことだった。2学期がもうすぐ終わるという会話から流れ、「じゃあ冬休みにどっか行こうぜ」ということになったのだ。
冬休みの活動がない(正しく言えば自主練だが)野球部は、みんな地元に帰るか、貴重な休みを友人や彼女と過ごす。学校が終わって何日かは寮も開いているため、栄純は彼の誘いに快くOKを出した。

約束は16時だった。携帯のサブディスプレイを見ると16時30分。もうすでに30分は過ぎている。バイトがあると言われたからこの時間にしたのだが、遅い……。と栄純は腕組みをした。
倉持は元々時間にルーズな性格ではない。むしろ10分前に来ているくらいだ。だから今日はおかしいのだ。栄純はめずらしく約束の時間ピッタリに来たというのに彼の姿はどこにもなかった。
倉持は一応傍から見れば“不良”という括りにされてしまう人だし、売られたケンカは買ってしまう人だし……。更に言えば彼は有名だ。顔も知られているらしいし(コンビニで助けてもらったときにやられた奴らはそれだけで怯えていた)とにかくこれだけ遅いからイヤな想像をしてしまう。

まさか、またケンカしてるとかじゃねぇよな……。

ああもう!と一度ジャケットのポケットに滑り込ませた携帯を開き、メモリから彼の番号を呼び出してコールした。


「……」


しかしメロディコールが鳴るばかりで、向こうに繋がりそうもなかった。
フラップを閉じて、再び指先に息を吐きかける。
ただ、ここで帰ろうと思わないのが栄純が栄純たる所以だった。

しかし、そのとき。


「な゙っ!?」


後ろから突然二の腕を掴まれた。
だがそれが誰なのか確かめる間もなく、その主は栄純の腕を掴んだまま走りだした。


「ちょ、何だよ!?」


必然的に栄純も走る形となり、しきりに脚を動かす。
腕を掴んでいた手は、するっと下がり、栄純の手を握った。
それは幾度となく栄純を抱きしめた手であり、栄純がずっと待っていた人物の手であった。
前を走る倉持は、恋人の問いに答えることなく、ひたすらに前へ前へ走る。
なんだよもう!と倉持が走ってきた道を振り返る栄純だったが、これでもか!というほど目を見開いた。


「待てやああああああ倉持いいいいい!!!」

「おい、1人仲間いんぜ!?」

「よっしゃ、あいつもつぶしちまえ!!」


ものすごいスピードで顔を正面に向かせる。
やばい、何だあれは!?!?!?
数にして20人ぐらい。すごいありえない髪色のコワオモテなお兄さんたちが追いかけてくる……ッ!!


「ぎゃッ!? 先輩!?」

「言いてえことはわかるけど、今はとにかく走れ!」

「何でこんなことになってんの―――!?!?」



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