NOVEL3

□スイートハートメロディア
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それはそれは、今よりBDの人気がなかった時期のお話。

栄純が一也の部屋でとあるアーティストのDVDを観ていたことから始まる。

クリスお手製の肉じゃがを食べ終わって、一目散に部屋に戻った彼は、一也が戻ったときにはすでにテレビの前に陣取っている状態だった。

一也は「お前はアニメをかじりついて観ている子どもか!」と突っ込みを入れたくなったが、栄純の真剣な目に何も言えなくなった。

で、それから2時間とちょっと。
DVDはエンドロールに入っている。スタッフの名前がずらずらと並んでいるが、バックミュージックはまだ流れたままだ。会場はアンコール(ただ普通のアンコールの掛け声ではなく、アンコールで定番になっている曲をファンが合唱してる)の波に包まれている。

栄純はというと、ひと段落ついたのか、ふっと息を吐いて後ろのローテーブルに置いてあったオレンジジュースを飲んだ。


「栄純?」

「……」

「……あ、プリンあるけど食う?」

「……」


何も答えない。呆けているのか、ライヴのかっこよさに静かに燃えているのか……。

プリンに釣られない栄純で、そういえばはじめて見たかも。と一也は、栄純の後ろ姿を見ながら、ふふと笑った。

そこで栄純がふいにバッと後ろを向いて、一也の目をまっすぐに見つめる。
彼の背中が映ったテレビでは、衣装からラフなライヴTシャツに着替えたメンバーが登場し、ファンの歓声に包まれながら手を振っていた。

ちらり、と栄純の背後に視線を向けたが、愛しい人の視線は自然と引き付けられて戻される。じぃっと見られるのは内心照れる。一也もまっすぐに栄純を見据えるが、栄純は(めずらしく)顔を赤らめもせずに、言った。


「一也!」

「なんですか、栄純くん」

「俺、最後の定番曲がほしい!」

「……はい?」


一也が珍しくぽかんとした瞬間、ドッとスピーカーからアンコール曲が演奏された。


「定番曲って……コレみたいな?」

「そう! みんなで大合唱できるようなやつ!」


と言いながら、流れてくる曲にのって身体を揺らしている。
まあ、面白いとは思うけど……。


「そーねえ……」


ソファーの横にあるマガジンラックから、普段ちょこっとした時間に書きためていたものや、過去にお蔵入りになった曲が書かれているルーズリーフと五線譜の束を引っ張りだすと、うーんと顎に手を当てながら唸った。


「前に書いたやつあったじゃん! でもみんなに見せたときにそれよりも『君のための愛』のほうがイイってことでそっちになったんだけど……」

「ああ……コレか」


『君のための愛』と同時期にできたものが、栄純が言っている曲だ。
新曲を出すとき、イメージ的にそっちのほうがイイということになり、お蔵入りになった曲があったのだ。
それは一也が作った曲にしてはなかなか明るく、どっちかと言うと栄純が作りそうなイメージ。(『存在証明』が栄純の初作詞だが)

曲名は『キラキラ』
これをライヴでやると想像するとファンに両腕を上げてもらって、左右に振ってもらいたい! といつだか栄純が言っていたのを思い出す。

lalala...という全員のコーラスからはじまるこの曲。
ちなみに普段ライヴでギターを持たない栄純は、唯一『キラキラ』でパートがある。

栄純はその楽譜を見ようと、DVDを一時停止にして一也の隣に座った。そばにあったビーズクッションを抱えて、こてん、と肩の上に頭を置いた。



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