NOVEL3

□可愛すぎるからきみはダメなんだ
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しっと【嫉妬】
[名](スル)
1 自分よりすぐれている人をうらやみねたむこと。「他人の出世を―する」
2 自分の愛する者の愛情が、他の人に向けられるのを恨み憎むこと。やきもち。悋気(りんき)。「夫の浮気相手に―する」


単なる好奇心でその単語を調べた中3の秋。
それをまさか、野球一色の高校生活で思い出すことになるなんて。
いやアイツに出会う前の俺は、こんなにも男のアイツに堕ちてしまっていることさえ予想もしていなかったはず。


ある日の休み時間。
次は選択授業の生物だから化学室までの道のりを1人で歩いていた。
同じクラスの御幸は生物ではなくて物理を選択しているから(なにせヤツは理系だ)別の教室で授業をしている。
女みたいにそこまで一緒にいると、さすがに勘違いされそうでいやだ。
……いや、別に沢村となら勘違いされてもいいけど、御幸とだなんて想像しただけで吐きそうだ。

化学室は2階の渡り廊下の先──特別教室棟にある。そんでその2階は主に1年がHRとして使っていた。だから沢村のクラス(1−B)も当然のことながら通るのだ。
2年が1年の階を歩いているなんて、1年にしてみれば怖いことなんだろうけど(実際去年は哲さんたちが通っただけでザワついていたし、ぶっちゃけ俺もちょっと怖かった)、進級した今ではそんなこと関係ない。
部活柄、視線が集中するのには慣れている。

で、実はこの曜日のこの時間。
沢村の姿を覗き見ることが密かに楽しみだったりする。
アイツのことを意識(すげえハズいけど)し始めてから発見して、付き合いが始まった今でもだ。
ちなみに沢村は知らない。というか気づいてない。
御幸のヤローに言ったらヤツは遠回りしてでも来るので絶対に言わないという決心を固めていた。

さて、と俺は1−Bをチラ見する。
教室の中でもひと際キラキラしている笑顔は、俺でなくとも惹かれる。

けれど……


「……っ!?」


惹かれてしまうのがわかるから、俺は時々沢村に笑ってほしくないと思ってしまう。

それは、あの笑顔が、俺以外に向けられているときだ。

部活ならまだ我慢できる。部のみんなはわかってくれているし、俺は御幸だけに注意しておけばいい。沢村もそれはわかっているらしいから、少し安心できる。

けれど、だ。

俺は初めて見たのだ。
今まで覗き見ていた沢村は、寝てるか、金丸に勉強で説教くらってるか(金丸も俺たちのことは理解してくれているから大丈夫だろうけど)、小湊弟や降谷と喋ってるかのどれかで、密かに安心していたが。


「ちょ、お前、それはねーだろ! マジありえん!」

「沢村ー、ほんとカワイイやつだな!」


このー! と沢村と話しているヤツがぐりぐりと沢村の髪の毛を撫でまわす。
おまけに首に腕を回して、沢村の脇腹をくすぐっている。当然沢村はアハハ! と笑っていた。
特別アイツは脇腹が弱い。それはヤっている最中に発見した弱点だ。
ヤツはそれを知っているはずがない(おそらく偶然だ)のだが、俺だけしか知らないソレを俺じゃないヤツが触っているのが、ムカついて仕方ねえ。

ブチッと久しぶりにナニかがキレた音がした。

──バンッ!

ザワついていた教室内は、ドアをおもいっきり足で開けた音でシン、と静まり返った。
理由の1つめは、2年の俺がアウェイの教室にいること。2つめは、俺がどうやらキレていることだと思う。
その俺の視線の先にいるのは同じ野球部の後輩(兼恋人)。他には何も見えていない。ボヤがかかってピントが合っているのは、沢村の姿だけだ。


「……先輩?」


ぽつりと呟かれた俺を呼ぶ言葉。それには戸惑いが含まれている。
次の授業なんてどうでもいい。
今はこのムカつきをなんとかしたい。


「沢村ァ……、こっちこい」


だが、凄みを利かせた声に怯えながらもちょこちょことやってくる恋人の姿に少しだけ安心した。



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