NOVEL3
□可愛すぎるからきみはダメなんだ
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特別教室棟のある教室。普段使われないこの教室は、必然的に物置小屋と化している。職員室からは見えないところにあるし、だいたい先生が要らないものを詰められているから、一部の不真面目な生徒たちにとっては、良いサボり場所になっていた。
それをこっそり小耳に挟んでいた俺は、がらりとドアを開け放ち、沢村が入ったと確認すると、内側からカギを閉めた。
薄暗い室内は少しホコリっぽくて、沢村は一度咳をする。
俺はそれを一瞥してから、沢村に手を伸ばした。
「先輩? どしたんスか?」
するっ、と小麦色の肌を撫でて、親指で唇を撫でた。
ちょっとだけ恐怖を含んだ声を耳元で聞いて、俺より薄っぺらい身体を抱き締めた。
ひとつしか違わないってのに沢村の体温は熱かった。けれど逆にその熱さが、俺の側に、俺の腕の中にコイツがいるんだってことを証明していて、思わずキツく抱き締めてしまった。それはもう、背中がきしむぐらいに。
「せんぱっ…ちょ、くるし…!」
「我慢しろ」
我慢しろって言ったってー! と吠える。が、俺は自分が思っているよりも沢村の存在が重要らしい。
「お前な、そんな簡単に自分の弱点晒すんじゃねえ!」
「っはあ?」
コイツ、わかってない!
このド天然がッ!!
「さっき、くすぐられてただろ、ココ?」
「んぁ、……っ!」
ワイシャツの中に侵入させた指で、つつ、と肌を這わせる。触るか触らないかぐらいの感覚で撫でたそこから甘い痺れが全身に回る。
ほら、みろ!
……まあ、俺の前でそんな声を出さなかっただけいいけどな!
「ったく、俺以外に触らせんじゃねえっつの」
「な、……! なにすんだよ!?」
「……この際タメ口は許してやるけど、今ちょーっとムカついてる」
「は……?」
わからない! といった表情で、眉間を寄せた沢村。
コイツの自覚がねえところ(いや、それが長所でもあるんだけど)は、ほんとに腹立つ!
そして、ワイシャツに入った手とは逆の手で、耳の後ろを撫でる。
「……ぅあ、!」
「サボれとは言わねえよ。ちょっとだけ、な」
お前がサボっちまったら、後が怖いのがいっぱいいるからな。
一応俺たちが付き合ってんのはみんな知ってるし(まあ一部了承してねえやつもいるが)、コイツのクラスには金丸がいるから、すぐにクリス先輩に報告されるだろう。すなわち沢村がサボったら、あの人の静かなる怒気の矛先は俺にくるわけ。
俺は先輩だし、後輩(しかもウチの戦力である大事なピッチャー)をサボらせたなんて前代未聞だ。
耳の裏から指を離し、骨を滑りながら顎を上げて固定する。
ぶっちゃけこれ以上してたら本気になる。というか勃つ!
「ばーか、物欲しそうな顔してんじゃねえ」
「誰がするかっ!」
沢村はぷん! と顔を逸らした。
ったく高1の男がする表情じゃねえよ。てか、耳赤くなってんだから、その言葉だいぶ説得力ない。笑える。
「なに笑ってんすか!」
「わりぃわりぃ、……っとお前次の授業なんだよ?」
「あ、美術だ!やべ、移動しなきゃ!」
ぎゃ! 教科書忘れた! と元からでっけえ目をもっとでかくして見開くと、スイッチが入ったように駆け出した。
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