Short story

□やさしいキスをして
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 それはまだ、「春」という季節が待ち遠しくて仕方がない、万事屋にとっては普段とかわらない日常をおくっていた時のことだった。
 突然新八は、「糖分」と大きくも大胆に書いてある額縁の下にある窓を開けた。
「うわっ!寒っ!これは今夜辺り雪かもしれないですね?」
 開けたことで部屋の中に入ってきた冷気に驚き、猫背になり肩を亀のように体の中心に沈ませて、新八は続けた。
「早いとこ大和屋さんちのシロミちゃん探しに行かないと、タダ働きになっちゃいますよ!」
「まあ落ち着けやァ、新八ィ」
 と、銀時は部屋の中央にあるソファにいつものようにふんぞり返り、結野アナの天気予報を横目で見ながら新八に諭すように言った。
「そんなにがっつかなくても見つかる時は見つかるし、見つからない時は見つからねェんだ。茶でも飲んで一息ついてからにしようや」
「そうアル。腹が減っては井草は刈れぬっていうくらいネ。食べ終わるまでてこでも動かないアルヨ!」
 「お前の場合は食い過ぎだ」と空になっていく炊飯器を眺めつつ、銀時は嫌そうな視線を神楽に浴びせる。
「ダメですよ!今日は夕方くらいから雪が降るって結野アナも言ってるでしょ?」
 新八は「シロミ」と縦書きに書いてある紙をわざわざクリップではさんだ猫の写真を懐に忍ばせ、二人を用意させるよう促す。

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