Short story
□奏(かなで)
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微かに残る潮の香りと硝煙と、非現実的な血の匂いが、なんとか辿り着けた万事屋に染み入るような気がして嫌気がさした。もう陽は沈んでいた。
「オメーら着いたぞォ。いい加減離れろォ」
自分だって今日は頑張ったんだから休ませてくれ、という風に右脇腹と背中にいる万事屋のメンバーに悪態をつく。
その内の一人である新八は、眼鏡がないから前が見えない、と少し駄々をこねたが、おぶってくれていた銀時のことを考えしぶしぶ床に降りた。
「…すぅー、すぅー…」
「…こいつよくこの状態で寝れるな…」
もう一人のメンバーである神楽は腕に抱えられるという、なんとも寝づらそうな場所ですやすやと寝息を立てていた。しかし昨日からのことを考えると疲れや体調異変が起きていてもおかしくないので、銀時は神楽をその状態から起こさぬよう出来るだけ注意し、本人の寝床である押し入れの中に寝かせる。
一人、ずっと留守番をしていた定春が主人の香りを嗅ぎつけ押し入れの前で行儀よく座っていた。