Short story

□うれしい!たのしい!…大好き
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 ことの起こりは期末テスト開始から2週間前に遡る。それは木枯らしも吹き荒び、例年よりも少し遅い冬を感じ始めた頃のことだった。
 2週間後に迫ってきたテストのことを考え、志村新八は深く溜め息をついた。いつも教室の窓から聞こえてくる野球部の掛け声も、今日から軽く3週間は聞こえてこないだろう。誰もいない教室で新八は一人茜色に染まる空を眺めていた。
「…志村ァ、何黄昏てんだ?」
 と、突然頭の上の方から聞き慣れた声が降りてきた。新八の担任にあたる、坂田銀八だ。
 銀魂高校に通う志村新八と坂田銀八は男と男、生徒と先生でありながら実のところ付き合っている。もちろん他の人には内緒だが。
「テストのことを、考えてました…」
「あぁ。まぁ、試験受けるのは生徒の義務だからな。いっちょ頑張れや」
 テストを受けるはずもない銀八は、自分には関係ないというそぶりで、新八の隣の席に座り、足を組んだ。そんな銀八に少し嫌気がさしたように相手を見向きもせず、新八は小さく呟いた。
「なんかご褒美でもない限りやる気なんて出ないよ」
 父の残した道場を継ぐ、という理由で、新八は受験などしない。よって特別嫌いではないが、勉強していい点を取ろう!だなんて、まったく思っていないのだ。
「国語80点以上取れたら、どっか遊びいくか?」
 時が止まった気がした。新八は瞬時に銀八の方に振り向き、鼻息を荒げて問いただす。
「ホント?…ホントですか!?」
 飛びつかんばかりの勢いで目を輝かせる新八に呆気をとられて、銀八はくすっと笑う。新八の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。嫌がる新八をはた目に、
「79点だったらこの話はなしだ。せいぜい頑張んな」
 そう言って新八の柔らかい髪から手を離し、その手をぶらつかせ、銀八は教室を出ていった。

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