Short story

□フツウのこと
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 街全体がざわついている。それは次の日には年がかわる為。何かタイムリミット的なものに追われて、街中の人々が新しい年を迎える準備をしている。もちろん万事屋も同じである。
 割烹義を着て戦闘態勢に入った新八は、朝早くから大忙しだ。
 普段何もしない銀時に万事屋の掃除を任せ、掃除させようものなら家を壊しかねない神楽にはいつも通り定春の散歩へ行かせ、自分は明日の朝皆で食べる為のおせちを作る。これが意外と時間がかかるのだ。
「うぅ、寒ィ…新八ィ、玄関終わったぜェ」
 手を赤く凍えさせ銀時はのれんをくぐって、新八のいる台所に入っていく。
 ありがとうございます、と新八はおたまを持ちながら横目で礼を言う。少し眼鏡が曇っているところは可愛いと銀時は思うのだが、ないがしろにされた感じがしていささかいじめたくなってしまうのだから、根っからのサディスティックだなと、自分でも思う。
 おたまで鍋の中の汁を掬って味見をする新八の耳に、冷えきった自分の手を新八の後ろから覆う。
「ぎゃあ゛あ゛ああァァ!!!」
 あまりの冷たさに驚き、新八の手からおたまが転げ落ちる。
「何すんですか!?」
 今にも飛び掛かりそうな勢いで新八は銀時の胸ぐらを掴み、眉間に皺をよせ激怒する。ものすごく怒るものだから、銀時は焦って両手を上げ、降参のポーズをするものの、納得いかない顔をして口を尖らせた。
「お前だけあったけェとこでぬくぬくしやがって…許せん」
「僕は別にあったまりたいからここでおせち作ってる訳じゃないですからね」
「よし!かわれ!俺が作る!」
「あんたが作ったら全部甘くなってまずくなるからやめろ!」
 絶対にこの場を死守したい新八は山田かつて…今だかつてないほどのオーラを背中から放ち、銀時を睨み付け腕を水平に出し阻止の意味合いを含めたポーズを取る。新八のただならぬ雰囲気に後退さった銀時は、降参したことを認めたくないものの、仕方がないとその場を立ち去ろうとした。
「あっ!待って銀さん!」
 踵を返し、また外に出ていこうとした銀時の手を掴み振り返らせると、そのあたたかい手で銀時の指の先を少し痛いくらいに揉み解す。
「銀さん元から冷え性ですからね…ちょっとはあったかくなりました?」
 楽しそうにする新八の手をぐいっと引っ張り、銀時はその手を自分の頬にもっていき、ぴったりフィットさせてぬくもりを感じる。
「次は部屋ん中でも掃除するさ」

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