Short story

□tune the rainbow
1ページ/4ページ

「絶対怪しいアル!」
 新八の作る夕飯を目の前にして、神楽は自分達の根城である万事屋のソファで最近の銀時について談義を始めた。
「怪しいってどの辺が?」
 断定して物を述べる神楽に少し困惑しつつも、新八はおぼんを体の前に抱え隣に座る。
「女の匂いがするネ」
「…んー。でも香水の匂いとかはしなかったけど…」
「これだからダメガネはいつまで経ってもダメガネアル!」
「なんでそうなるんだよ!だいたい神楽ちゃんだってきちんと見た訳じゃないでしょ?」
「女の感ネ!」
 偉く自信があるらしい神楽は銀時の真似をするが如くふんぞり返り、更には耳の穴を自分の小指で掃除するようにほじっている。決して女の子らしいとは言えないその動作に新八は、癖にならなければいいけど、なんて余計な心配をしてしまう。
 とにかく、今はそんなことを気にしている場合ではない。ここ2日ではあるのだが、銀時が何も言わずに出ていく姿はパチンコや居酒屋で酒に溺れていくようには見えなくて、特に神楽は気になって仕方がないようだ。
 もちろんかくいう新八も心配していない訳ではない。けれど逐一銀時の行動を100まで知る必要もないとは思う。結局当番制を用いている割りには自分ばかり夕飯等を作らされている身としては、飯を食うのか食わないのかくらいは言っておいてもらいたいものなのだが。
「新八ィ。気を付けてないと略奪愛されてしまうヨ」と新八の耳に近付きひそひそと囁く。
「どっ!どこで覚えてきたの!?神楽ちゃん!」新八は汗を玉のように飛ばし慌てる。
「その後その女と一戦交えるアルから、今からよく鍛えておくネ!」
「神楽ちゃん意味わかって喋ってる?」
 多分略奪愛の「り」の字もわかっていない神楽は、新八の前で軽くジャブを見せて、何故か臨戦体勢に赴いていた。
 神楽の冗談のような勘違いは置いといたとして、自分も含め銀時に女性が寄ってきたことなどあやめくらいなもので、正直信じられないところがあった。
 でもどこかで本当だったらどうしよう、なんて思っていたりもして…。
 そんな不安を掻き消すように、新八は神楽に明るい口調で話し掛けた。
「銀さんの分も食べちゃおうか?」
 神楽の満面の笑みでその話題はおしまいになった。
 窓ガラスががしゃがしゃと音を立て始めた。急に強い風が万事屋の壁を叩きつける。街の色が忽然と夜に染まっていく。豪雨になりそうだ。新八の頭の中はやはり消え去らない銀時への心配でいっぱいだった。

次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ