Short story

□ふわり
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「だからしゃもじで食べちゃダメって言ってるでしょォォォ!」
「うるさいアル!このダメガネ!私は誰の指図も受けないネ!」
 炊飯器を抱えて神楽は朝ご飯である白米をものすごい勢いで口の中に入れ込んでいた。最近の朝の恒例行事になっていることは、ご近所では軽く有名である。
「ふー。まだ足りないアルぅ」
 自分の体を愛でるように神楽は自分の腹をさする。その近くには食べ散らかしたお釜が置いてあって、新八はその姿を見て深く溜め息をついた。
 今日も自分は彼女に負けた。強引さが足りないのが勝敗の分かれ目になっていることはわかっていたが、自分より年下の、仮にも女の子に手荒な真似は出来ない。そう考えてまた一つ溜め息をこぼす。だが行儀が悪すぎやしないか。
「まったく…」
 愚痴らしい愚痴はこぼさず悪態をつく程度で、新八は冷え始めたお釜を自分の元へ引き寄せ、お箸を器用に使い、細かく付着した米粒を一粒一粒丁寧に取ってはもったいないと呟きながら口に入れた。神楽はなんだか惚けて新八の行動を見つめていた。
「お前ら毎朝毎朝うるせェんだよ」
「つか、銀さんそれなんですか?」
「あぁ?見りゃわかるだろ!宇治銀時丼だ!」
「朝からなんつーもん食べてるんですか!?」

 バキッ

 万事屋に老い木をへし折るような音が響いたのは言うまでもなく、もんどり返ってなんとか痛みを和らげようとする銀時は、「親父にもぶたれたことないのに!」という所謂お決まりのものまねをしては、本気で痛かったらしく、いたた、と呟き宇治銀時丼の前に座り直す。
「人が何食おうが勝手だろうが。お前は姑ですか?コノヤロー」
「どうなってるの!?に電話するぞ!コノヤロー!」
「古っ!せめて答えて頂戴にしてよ」
「まあまあそんなかっかすんなや、新八。お前には糖分が足りないんだ。いいから俺の宇治銀時丼を食べろって、はまるから!」
「アンタは足りすぎてもう必要ないでしょうが…」
 朝からどうしてこんなに大きい声を張り上げなきゃならないのか。新八は、もういいですよ、と諦めてソファに座った。銀時は怒るのを放棄した新八を見ては、自分の大好物をうまいうまいと言って口に運ぶ。神楽は次にそんな銀時を刺すような目付きで見つめる。
「私の持ち方とみんな違うネ」

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