Short story

□はじまりのHands
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「手があったかいと心が冷たいんだって。ホントかな?」
 昔桂に言われた言葉だ。
 正直なところ、掌の温度があたたかろうが冷たかろうが、冷酷な人間はごまんといると、先般銀時は考えていた。
 盗みを働く者、女を強姦する者、嘘をつく者、約束を破る者。皆がそれぞれ手があたたかければ、そんな統計がとれたなら面白いのだが。
 その日は森の中で薬草になる草を皆で覚えようという授業だった。もう何年も前の話だ。むしむしして不快指数もだだ上がりだというのに、これでもかと言わんばかりに太陽は熱い日差しを送り込んでいる。先生に麦わら帽子を被せられた。
「あっちぃ」
「こら、銀時。先生の話聞かなきゃ!」
「だってよォ、熱くて聞いてられたもんじゃねェよ。早く帰って宇治金時のアイス食いてェ」
「銀時ィ、小太郎ォ。こっちに来なさい。涼しいですよ」
 呼ばれた先に、甘えるように松陽先生と手を繋いでいる高杉を見て、銀時と桂は一度お互いの顔を見合わせてにやりと笑った後先生のもとへ駆けた。高杉は二人の表情を遠くから認識し、恥ずかしいとすぐに手を解いた。木々の下はやはり涼しかった。
「先生先生!」
「はい?」
「手があったかいと心が冷たいらしいんです。本当ですか?」
「今は薬草を覚える授業ですよ。違う話をしていたとあっては感心出来ませんね」
 松陽は眉間にしわを寄せ、冗談めいて呆れてみせた。桂は後退さることなくせがんだ。子供の好奇心を抑えることはそう容易ではない。
「俺はあったかいけど…」
「あ。俺も」
 高杉と銀時は互いの温度を確かめるように小さい手を握った。あたたかい、というよりかは熱ささえ感じられた。
「お前達俺が残しといたプリン食べちゃうしな。実証されたね」
 思い出したかのように桂は溜め息をわざとらしくついた。白々しく目を座らせて、やれやれと肩を上げ下げする。
「なんだよ!それなら俺のいちご牛乳はどうなんだよ!」
「そうだ!俺がおでん食べてる横からがんも取って食べた!」
「それもう何ヵ月も前の話だろ!根にもつなよ!」
 三人は三様の過去の食歴を取り上げては取っ組み合いを始めてしまった。近くで先生の話を聞いていた他の生徒が、呆気に取られて口をぽかんと開けて三人を見ていた。
「こらっ!三人共喧嘩は止めなさい!」

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