Short story

□ミルキーは新八の味
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 銀時は悩んでいた。
「いらっしゃいませ〜」
 ここはかぶき町弐番外。表とは違い、汚い商売や取り引きが行われることで専ら有名な場所だ。耐震性の怪しい雑居ビル、明らかにガンを飛ばしてくるチンピラ、無駄に高そうなスーツを身に纏ったホスト。コンクリートで舗装されていない路地裏は、その道を入ってはもう生きては帰ってこれないよ、と闇が囁いているような気さえした。泥と生ゴミが混ざって、コバエが沢山飛びかっていて汚さを感じる。なんだか天気さえどんよりしている気がした。
 そんな普段なら銀時でさえ近寄らないこの場所に、用があるとすれば一つだけだった。
「すんまっせーん、新しいのなんか入ってる?」
「それならァ今このもさもさした方がァ、仕入れてきてくれましたァ」
「もさもさ?」
「おぉ!ぎっちりおおきに!次もお願いするがで」
 猫撫で声で無駄に乳の大きい女は、奇抜で谷間を強調した、目がチカチカするほどの赤いチャイナ服を着て、銀時の隣に立つ長身の男を指差した。
 その男は銀時並みの天然パーマにグラスの面積の狭いサングラスをかけ、赤いコートに下駄を履いて、独特の喋り方で仕入れた商品の勘定をしていた。
「おまっ…!辰馬!?」
「んっ?その声は…金時じゃなかか?おんしゃーなきこがなところにおるが?」
 相変わらず銀時の名前は間違えつつも、友との久しぶりの再会に坂本は上機嫌であった。そんな坂本の言動はスルーしながら、銀時は訝しげな表情を浮かべ、坂本が仕入れてきたという商品を坂本の背中からちょろちょろと覗き見る。
「おまえこんなとこでも商いか?」
「広い宇宙でいろんなものこしらえる。それが商人じゃ。まっとうなことにかわりゃせん。そういやァ金時は昔からマニアックじゃったからなァ」
「うるせェよ」
 店内は電波ソングが流れていて、落ち着きがない。カップルらしき男女から、仕事帰りにもかかわらず元気そうなホステス、はたまた銀時と似たような理由でそわそわしている男性も中には存在した。
 そう。表立って買えないものといえば、大人向けのもの。
 銀時と新八の週の性交の回数はほどほどであった。本来からの生真面目な性格の持ち主である新八故に、何度交わっても恥ずかしさは消えないようで、気持ちよさもさることながらそっちの生活は充実していた。

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