Short story

□恋の薬は魔法の薬☆
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 にやついた口元が押さえられなかった。
「やべェ、やべェよ」
 少し桃色が混じった夕焼けの空の下、生計を立てることにやっとな万事屋のオーナーこと坂田銀時は、沢山の戦利品を胸の前で抱え、民家の壁もアスファルトも茜色に照らされた帰路を歩いていた。
「使わなさそうなのは売ってもいいよな?」
 ほくほくとした笑みが気持ち悪い。
 普段どれだけ粘ってもすっからかんになっていく箱の中身が、今日は3箱4箱は当たり前で。銀色の玉が敷き詰められていく様を悔しそうに見つめる長谷川の顔を、思い出してはまた銀時は薄笑いを浮かべた。もちろんパチンコの話である。
 電動歯ブラシに髭剃り機、体重計まで。もちろん菓子や乾き物の山も付いてきて、これで当分悠々自適の生活が出来ると銀時はご満悦に口角を上げた。体重計は神楽にでも渡しておけば、いつかの二の舞も防げるというものだ。
 銀時は紙袋に入っている大量の菓子をさっそく口に頬張る為、奥まで手を突っ込んだ。プラスチックの擦れる音の中取り出したのは、10cmくらいの細長い紙の箱で、表面に怪しく「惚れ薬」とかわいらしいフォントで印刷されていた。
 何かそういう時用の道具だろうか、ととりあえず縦に振ってみる。ちゃぽんという音がした。重さもそれなりにあるので小さい小瓶でも入っているんだろうと想像する。
 箱の裏には中身の説明が事細かに印されていた。

【成分・分量】1本中
argasmia、クエン酸シルデナフィル 25mg
【効果】
服用時、眼前にいた生物への自発的恋愛感情の発生・顔面紅潮・勃起時の持続時間延長・陰茎の硬度増加・快感倍増
【用法・用量】
成人(15才以上)1回1本、1日1回を限度として下さい。15才未満は服用しないで下さい。
【注 意】
1.15才未満の小児は服用しないでください。
2.服用後、乗物または機械類の運転操作をしないで下さい。
3.服用に際しては、説明文書をよく読んで下さい。
4.直射日光を避け、湿気の少ない涼しい所に保管して下さい。
5.…

 ここまで読んだ時点で、銀時の頭から漫画の吹き出しのようなものが空中に出現し、その中でよからぬ考えを巡らせる。というのはもちろん気分の話だ。

『んぅっ…すごく気持ちよくて…、い…いいの…もっと触って…!』
『あっ…あんっ、銀さん…っ、好き…っ!大好き…!!』

 気付けば、箱の説明文に赤い雫が垂れていて、最後の方が読めなくなってしまった。言うまでもなく、銀時がいやらしい想像を働かせていたおかげだ。

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