Short story

□溺愛
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 涼秋。と言うよりかは、着実に冬へと向かう最中、銀魂高校の文化祭がとうとう明日に控えていた。
 2回目の文化祭を迎えるべく、3年Z組の生徒・志村新八は、吐く息を白くして大きく溜め息をついた。
「悪夢だ…」
 何故去年と同じメンバーで、もう一年3年生を過ごしているのか、というのはさして問題ではなかった。もちろん文化祭前日を何日も何日も繰り返していることに気付いてしまった、といったどこぞのアニメのような状況でもなく、それに対してげんなりしている訳でもない。
 事の起こりは、9月の終わりのHR。
「お前らァ、よく聞けェ」
 相変わらずのやる気のない相好に、安物の小汚いサンダルを履いて、3年Z組の担任、坂田銀八は教卓の前に立っていた。
 新八は、自分の担任でありながら、銀八こそ反面教師という言葉が似合う人はいないと思っている。授業中にタバコを咥え、教科書の裏にジャンプを忍ばせる教師なんて聞いたことがない。初めての授業で、「やかましい!うっとおしいぞこのアマ!ガル。ドオォーン。オラオラオラオラオラオラ!!!ドドドドドド。やれやれだぜ」と朗読した時は流石に新八も面食らった。その読み方がまた棒読みだったことが、新八の記憶を鮮明にさせたのだ。
 そんなダメ教師と平凡生徒新八が、実は付き合っている、なんてことを誰が想像出来るだろうか。新八ですら、進級当初は考えもしていなかったのだから。
 HR中にも係わらず、新八は黒板の上の糖分と書かれた額縁をぼーっと見上げて、自分の過去を思い出し頬に朱を走らせた。いろいろと恥ずかしいので、今回は割愛しよう、と思う。
「そういう訳で、今年うちのクラスの出し物は、男女衣装交換でナースと医者喫茶をする。以上ォ」
 しばしの沈黙が教室を覆った。
「な、なんですか!?それ?きちんと説明して下さい、先生!」
 想い耽っていた間にとんでもない文化祭になってしまうところだった。それを止めよう、と新八はしゃしゃり出た。しかし、そうだそうだ、と言う後押しの声援が背後から全く聞こえてこない。新八はクラスメイトの異常な状況に素早く気付き、後ろを振り替える。バッという効果音でも付きそう素早さで、他生徒達がそっぽを向いた。一体全体どういうことだ、と新八は冷や汗を垂らした。

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