Short story
□うれしい!たのしい!…大好き
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午前9時。新八は律儀に集合時刻ぴったりに、かぶき町の駅のロータリーの前であの男を待っていた。
誰かに出くわしたりしないだろうか?たまたまクラスメイトに出会ってしまったら、なんて言い訳をしよう?などと一人で悶々と待ち続けていたら、するりと一台銀色の自動車がロータリーに入ってきて、新八の目の前で止まり、ゆっくり窓が下がった。
「おはようございます」
銀八だ!
タクシーくるから、と乗車を催促され、急いでドアを開けて中へ入る。新八がシートベルトをしめたのを確認すると、車は意気揚揚と走りだした。FMラジオが流れている。
「寒かっただろ?」
そう言うと運転中にも関わらず銀八は新八の手をきゅっと掴み、何度も握り返す。
「先生!運転!運転!」
新八は銀八との体温の差やぬくもりに驚き、はぐらかせるように運転に集中させる。そんな新八の反応に愛らしさを感じた銀八だったが、当人の言う通りその手をハンドルに戻した。
新八はきまずくなってどうしようかと俯く。正直なところきまずくなっているのは、新八一人なのだが。
いわゆる普通の恋人同士なら何事もなく握り返しただろう、と新八は思う。別に自分のことを特別視したい訳ではないが、こういうことに大変不慣れなのだ。いつもうまく自己表現出来ない自分が嫌になる。大人で余裕のある銀八が羨ましい。
「先生!車持ってたんですね!」
自分のしてしまったことに後悔し、それを打破する為陽気な声で聞いてみる。銀八のおかげもあって、少しずつ自分の手があたたかくなってきたことを感じる。
「あぁ?違ェよ。レンタカー。今日はこれでネズミが支配する国に行くから。ちょっと遠いから」
「…えっ!?それって…?」
「察しの通り」
「ええェェェェェェ!?」
銀八はくわえたタバコを窓から放り投げ、しれっと答えた。