Short story

□フツウのこと
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 慌ただしく時間が過ぎていった。
 新八はおせちを粗方作り終えると今度は年越しそばの用意をし始めた。おせちに関してはだが、なにぶん極貧生活の万事屋なので、たいしたものは作れていない。
 でも三人並んでおせちを取り囲む。料理の取り合いで修羅場になるかもしれないが、そう出来ることの嬉しさを新八も、きっと神楽もわかっている。
 銀さんの考えていることは、実際どうだかしれたことではないな、と新八は複雑そうな表情で考える。
 実のところ、わかっているようで、彼の本心は霧のように掴めないし見えづらい。悪人が考えそうなことは考えていないであろう、ということだけはわかるのだが。
「新八ィ!夕飯まだアルか?」
 外から元気よく帰ってきた神楽は、一目散に台所にきて、鼻をひくひくさせ香りを楽しむように新八に近づく。
「おかえり神楽ちゃん。手洗いうがいした?」
「まだだヨー。もう食べれるアルか?」
 蛇口をひねり、お湯で汚れきった手を洗い、近くにあった湯呑みで言われた通りうがいをする。
「うん。神楽ちゃんは机の上の用意お願いね」
「がってん承知ノ助ネ!いっさいがっさい任せとけアル!」
 どこの猛烈太郎?とツッコもうと思ったが、鼻歌を歌いながらすばやく居間へ行ってしまったので止めた。
「おっ。あいつ帰ってきたのか」
 部屋の掃除を終えた銀時が神楽と入れ替えでまた台所に入ってくる。
「はい。銀さんお疲れ様」
 銀時を労うように新八は微笑み、ずっと隠していたある飲み物を銀時の前に差し出す。
「………甘酒?」
 銀時の好きなものがコラボレーションしている最強、かどうかはわからないが、そんな飲み物をその辺にあるコップに注いで渡してやる。ご丁寧に適温で、香りを放ちながら湯気を立たせて。
 銀時は何も言わずそれを片手で受け取り、豪快にのどを鳴らして飲み干す。湯気を弄ぶように一息ついて、言葉を発する。
「新八が煎れてくれたから余計うまい。おかわり!」
 銀時は鼻息を荒くし、空になったコップを勢いよく新八に戻し、もう一杯とねだってくる。そんな銀時に嬉しいような困ったような表情を新八は浮かべる。今ある分を飲み干されては明日の分がなくなってしまうからだ。
「銀ちゃん何飲んでるアルか?」
 蕎麦のつゆとは違う香りに誘われるように神楽もまた台所に戻ってきた。
「あぁ?オメーにはまだ早ェよ。コロナミンCでもすすってな!つーかこれは俺の甘酒だァ!」
「そんなこと言っていいアルか?」
 神楽に飲まさせまいと焦る銀時に対し、神楽は何か企んでいるような不適な笑みを描いた。

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