Short story

□My Funny Valentine
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「おつかいついでに買い物してたら遅くなっちゃった」
 チョコレートを作って欲しいという依頼を受けて、銀時から板チョコ等々必要なものを買ってこい、と頼まれてから1、2時間経ってしまった。時間がかかり過ぎてもしかしたら二人共腹を立てているかもしれない。新八は足早に仕事場に戻るよう努めていた。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
 丁度万事屋を後にしようとしていた女性が新八の目に飛び込んできた。
 黒目の大きい二重の瞳。睫毛も長く、唇は紅を塗っていて弾力がありそうだ。髪は茶色の明るめで、毛先を巻いているのかくるくるうねっている。見た目の感じだと自分よりは5つくらいは離れているように見える。
 通りすがりに薔薇の香りのコロンが鼻をかすめて、心臓がどくんと反応してしまう。
 こんなにキレイで女らしい人が何故万事屋を出てきたのか。真相を確かめるべく、新八は急いで階段を駆け上がった。
「ただいま戻りましたァ。銀さんさっきの人、依頼人?」
 少し重めの荷物を居間の机の上に置いて一息つこうと台所へ向かおうとする。すると神楽に腕をすっぽ抜かれるかと思わんばかりの強さで引っ張られた。
「銀ちゃんさっきの女と14日にデートあるよ!」
 一瞬新八の頭の中の思考が停止する。
 あの銀さんが?糖尿病寸前天然パーマネントでマダオの、あの銀さんが?
「今日ってエイプリルフールだっけ?」
「現実を見るネ、新八!嘘だと思うけど嘘じゃないアル!」
 嘘だと思うけど嘘じゃない?夢だけど!夢じゃなかった!…ってそれじゃあ「となりのペドロ」だ。
 新八はフリーズした頭を再起動させるべく、頭を数回横に振る。
「ホントに……デート、するんですか…?」
 少し声が震えている気がした。心のどこかで銀時の「ノー」を待っている自分がいて、今までに感じたことのない複雑な感情がゆらゆらと火が点いては消えた。銀時は何を考えているかわからない顔で相変わらずな感じでソファから動かない。
 しばらくの沈黙の後、銀時の口がゆっくり動いた。
「依頼だからな」
 その言葉から銀時が喜んでいるのか困っているのか、新八にはわからなかった。ただ一つわかったことは、無言の「お前には関係ない」というオーラ。
「……………勝手に行けばいいんじゃないすか?」
 新八の口からは、自分でもわかるほどに冷えきった声が洩れていた。

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