Short story

□あなたにハッピーバースデイ
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 昼間に比べていくらか涼しくなったとはいえ暑いものに変わりはなく、普通サイズの犬の何倍も大きい定春の何倍も大きい呼吸が暑さを更に際立たせていた。舌を出してそこから大粒のよだれがアスファルトに滴り落ちていく。
「なんだか騒がしくなっちゃいましたね」
「あぁ。人徳人徳。よかったじゃねェか、沢山に祝われて」
 恥ずかしそうに照れる新八を横目に、銀時は一度軽くジャンプをし神楽を背負い直した。
「あんなに沢山の人におめでとうって言われたことなかったから、ちょっとくすぐったいです」
 自分の誕生日だと思うと朝から緊張と高揚でどきどきしていた。遠足に行く前の幼子のように、前の晩はなんだか寝つきが悪かった。蓋を開けてみれば、皆優しい顔を向けて「おめでとう」と言ってくれる。プレゼントをくれる人もいた。誰も彼も笑顔が絶えなくて、いつも地味だ地味だと言われているのが嘘のように皆の中心に自分がいた。
「銀さん、ケーキありがとうございました」
 思い出したようにお礼を伝えて、新八は変わらずバイクを押した。
「あそこまで甘くなければパティシエとかになった方がいいんじゃないですか?」と笑ってみせる。
「お!それいいかもな。パティシエ銀ちゃんか。稼げそうだな」
 銀時は冗談に乗ってそんな未来を想像するように濃紺の夜空を見上げた。粒ほどの大きさに見える星々がかぼそく煌めいていた。それに連なって新八も天を仰いだ。
「夏はやっぱり晴れてると空がキレイですね」
 電信柱の光がひどく光ってところどころぼんやりとしか見えないが、やはり夏の星は清々しいほどに輝いていた。去年三人と一匹で見に行った流星群が懐かしい。
「でも夏の星座っていまいちわかりづらいんですよね」
 新八は前方を気にしつつ、目を細めて星達を眺める。視力が悪いので、あるべき場所に位置しているはずの星が二つになって分離して見えていた。
「つーか星自体あんまわかんねェんだけど」
「そうですか?冬は大三角形とかあるからわかりやすいんですけどね」
 駅一つ分を歩いたところで風が吹いて、道端の草や木々を揺らした。知らない人の家から風鈴の高い音も聞こえてきて涼やかで申し分なかった。

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