The real world

□無力。
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(ジューダスside)
 
 
 
「nami」
 
真夜中、
寝ついて間もないのに、彼女は夢にうなされていた。
額に汗を浮かべ前髪をはりつけて、閉じた眼からは涙が溢れている。
悪夢、か…??
数度名前を呼ぶが、反応はない。
 
どんな夢にうなされているのか。
どうして僕には見えないのか。
 
理不尽な疑問まで浮かんでくる。
彼女の前髪を払って汗を拭ってやると、
彼女は顔をそむけるようにして寝返りをうつ。
布団代わりのマントをかけなおし、頭をなでてやると、
少しずつ呼吸が整い、表情も穏やかになってくる。
そのまま涙が止まるまで、僕はそばに居続けた。
 
「エミリオ…」
「すまない、起こしたか」
「ううん、いいの。
ありがとう、安心した」
 
恐かった。
彼女はそう言って夢の内容を話し始めた。
 
これまでに渡り歩いてきた世界が闇にのまれ、消えていく。
後には何も残らず、その存在した時間も、全てがなかったことになる。
目の前で大切な人たちが自分に助けてと目で訴える。
無力さに絶望し、消えていく命に涙した。
 
「ひとりになるのが…恐かった」
「僕がそばにいる」
「でもね、一つだけ…ホントがあるんだ」
 
 
ルークたちの世界が消えた。
 
 
彼女はまた涙をこぼした。
守れなかった、と。
 
彼女には…その瞬間が見えたのかもしれない。
闇にのまれゆく仲間たちの助けを求める、その目線も。
 
「“私たち”やカイルたちは元の世界に戻せた。
ゼクンドゥスの力も借りて時間軸を隔離してもらってる。
…たぶん、安全」
「お前は大丈夫なのか」
「ん、平気。
なんてったって、神の眼があるんですもの(笑)」
 
彼女はおどけて言う。
果たしてその言葉が真実かどうか。
彼女は他人のためなら平気で嘘をつく。
そしてそれを貫く。
僕が気づいてやらなければ、どこまでも無理をする。
スカタンよりも恐ろしいほどにお人好しだ。
 
まだ夜中だ。
寝るように促したが、彼女は僕の服の袖を掴んだまま離さなかった。
 
「大丈夫だ、寝ろ」
「…次に目が覚めたら、また暗闇かもしれない」
「僕がここに、お前の隣に必ずいる。
それでも不安か??」
「いいえ」
 
一度は掴まれた袖がぱっと離され、彼女は再び目を閉じた。
聞こえてくる規則正しい呼吸の音。
しばらくそのリズムを聞きながら、そばにあるディムロスとlemriaを見ていた。
 
全ては、彼女があのソーディアンを創ったことから始まったのかもしれない。
彼女が僕の前に現れたのも、あるいは…
 
神の眼が、ここにあるという事実。
世界が、消えていくという事実。
彼女が、僕の前に現れたという事実。
全てが現実に、確かなことで少し複雑な気持ちになった。
そのどれもが彼女の背に重く背負われているのだから。
 
僕はそのまま、彼女の枕元で目を閉じた。
孤独から救ってくれた彼女を孤独から救うために。
 
 
 
※ ※ ※
 
 
 
――コンコン
「二人とも、起きて!!
朝だよ〜、ご飯食べよ!!」
 
返事をするまでノックし続けるつもりなのか、
その声とノックはいつまで経っても鳴りやまない。
たちの悪い…
 
「わかった、今いく」
 
渋々その扉を開けると、その声は想像通りファラのものだった。
食器が片づかないから早くね、と言うだけ言って戻っていった。
扉を閉め、ベッドを振り返ると彼女が起きているのに気づく。
まだ頭が起きていないのか、しばらくぼーっとしていたが、はっと我に返る。
 
「おはよ」
「あぁ。…今の聞いていたか」
「ご飯、でしょ。行こうか」
 
大きなあくびを一つ。
昨日の儚さは嘘のよう。
涙のあとが残る顔を洗い、食卓へ向かう。
そこには食事中のキールやメルディがいた。
 
「メルディ、こぼすな。
…ちゃんと起きろ」
「はいな〜」
「おはよう、二人とも」
「あぁ、おはよう」「おはよ〜」
 
こちらの世界の食事は少し食材が異なり、ソディという香辛料が独特だ。
食事を済ませると、紅茶で一服しつつ、リッドたちが今日の予定を話し合う。
彼女も聞き耳を立てているよう。
どうやら、キールたちは一度登城するらしく、便乗して僕らも行くことになった。
二人だけで世話になるわけにもいかない。
 
 
…とはいったものの、こいつらのペースときたら遅いことこの上ない。
まるでピクニック気分だ。
イライラしながら彼らの背を睨む僕を、彼女はクスクスと笑う。
 
「イライラしてるね」
「当たり前だ」
「きっとこれが普通なんだよ。
私たちは少し急ぎすぎてたのかもね」
「だが…」
「大丈夫」
 
その自信の出所を聞きたかったが、今はやめておく。
彼女もきっと、自らに言い聞かせているのだ。
今はこの笑顔があることを嬉しく思っておこう。
 
ゆるりゆるりと歩くうち、寄り道も増える。
チャットのところに行こう。
誰だ、そう言ったやつは。
 
 
 
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