HISTORY

□He isn't aware of the danger.
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「薩摩人には気を付けた方が良いぜ、木戸さん」
井上が木戸の家を訪ね、暫く談笑した後に何の脈絡も無くそう切り出した。
あまりの唐突さに驚きつつ、木戸は頷く。
「分かっているさ。特に西郷と大久保は油断がならない――」
「あァ、違う違う。そういう意味じゃないんだ」
大袈裟に手を振り、井上は木戸の言葉を遮った。
「だとしたらどういう意味なんだね、世外?」
井上の話し方に戯けを感じた木戸は、肩の力を抜いて微笑んだ。
廟堂では決して号で呼んだりはしないが、こういう場だと木戸は親しげになる。
それが木戸の甘えであると井上は理解し、また号で呼ばれる事にも満足だった。
今回もその満足感に浸りつつ、
「御稚児さんってのが薩摩では流行っているのは知ってます?」
ぱしりと扇子で膝を叩き言った。
「あぁ……長州人の私には良く分からないものだけれど」
木戸は苦笑しながら頷く。
「まぁ要は男色の御相手って訳だ。そんで、」
井上はニヤリとし、
「木戸さん、あんたは綺麗だから気を付けな。そういう事を言いたかったのさ」
そう言って悪戯っぽく笑った。
目の前でそんな事を言われた木戸は真っ赤になり動揺する。
「こら、年上をからかうんじゃない」
「いや、本当の事を言ったまでだ」
「……世外、」
顔を赤らめて困った様に俯く木戸に、
――やっぱり気を付けておかないとなァ。
井上は何故か保護者の様な気持ちになるのだった。












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