OTHER

□出逢い
1ページ/1ページ

一陣の風
舞い散る桜の花弁
桜吹雪の中に君は居た



四月
僕は十二支高校に入学する。
入学する前に野球部のグラウンドを見ておきたいと思って入学式の前日に学校を訪ねた。
今は丁度桜の時期で、どの木も皆満開だった。
綺麗だな、と思いつつ校舎に目をやる。
「あれか……」
十二支高校野球部の、伝説。
その伝説の証があの壊れた時計なのだと思うと、思わず見惚れてしまった。
何時までそうしていただろうか。
本来の用事を済ませていない事に気付き、はっと我に返る。
慌ててグラウンドの方へ行こうとすると、
ざぁっ
と一陣の風が吹いた。
視界が桃色に染まる。
と、僕は舞い散る桜の花弁の中に人が居る事に気付いた。

すらっとした細身の身体
透き通るような白い肌
風になびく長髪

美しく、そして神秘的な世界が其処に在った。
時が止まったような気がした。
思わずほぅ、と溜息が漏れた。
と、突然その人が僕の方へ歩いて来た。
心臓が跳ね上がる。
何故こんなに緊張しているのか分からないけれど。
その人は僕の前でぴたりと止まった。
「此処の野球部の方でおられるか……?」
彼の声は深く澄んでいた。
喋り方は少し古風で。
「あ、いや……僕は今年此処に入学するんです」
僕はぎこちなくそう答える。声が、少し掠れていた。
すると、彼の方は意外な反応を見せた。
「……我も今年此処に入学する者也」
と言ってにこりと笑ったのだ。
正直、少しドキリとした。
何故だかその笑顔がとても可愛く見えたから。
赤くなった顔を隠す為に、慌てて僕は俯いた。
「じゃ、じゃあ僕等は同級生になるわけだね」
「む、そういう事になるな」
彼は少し首を傾けてそう言った。
さら、と長い髪が肩を滑っていく。
その様子をぼぅっと見つめていたら、彼がすっと右手を出した。
「……え?」
「握手……也」
そう言ってまた彼は微笑んだ。
その笑顔がとても優しくてつられて僕も笑顔になった。
「よろしくね」
「よろしく」
握った右手はとても温かかった。












[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ