HISTORY

□キャッチボール
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「おーい」
晴天の下、明るい声が響き渡る。
声の主は留学先で見た球技にすっかり虜の木戸孝正。
「伸顕、投げるぞ」
「あぁ」
ばしり、と掌に感じる衝撃。
受け取った縫い目の付いた球を投げ返す。
俺が投げた球を取り損ね、孝正は慌てて転がる球を追い掛けた。
「はは、駄目だな。もう直ぐ皆の前で披露しなくちゃいけないのに」
球に付いた土を丁寧に払いながら楽しそうに笑う姿は俺より年上には見えない。
「……楽しそうだな、随分」
「あぁ、楽しい。伸顕は楽しくないか?」
俺の言葉に孝正は小首を傾げた。
さらりと艶のある黒髪が揺れる。
「いや、楽しい」
「――そうか。キャッチボール頑張ろうな?」
にこりと微笑む姿を見て思わず孝正を腕の中に引き寄せた。
「あぁ、そうだな」
耳元でそう囁くと、孝正はぎこちなくもぞもぞと動く。
「お前……な、一応僕は年上だぞ」
「分かってますって」
適当な丁寧語を使うと、孝正は諦めたように溜め息を吐いた。
ぐい、と細い腕が胸板を押し返す。
「伸顕、練習再開するぞ」
「はいはい」
そう言って俺が構えると、凄い速さの球が飛んできた。
受け損ねて跳ねた球が額にぶつかり、衝撃で俺は倒れる。
孝正の楽しそうな声が聞こえたが、あぁこれは彼なりの照れ隠しなんだと無理矢理思い込んだ。



俺達の秘密特訓はまだまだ続く。











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