HISTORY

□困惑
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――頭が、割れる様に痛い。
木戸は頭を抱え込んだ。
これでは仕事にならない。
しかし、この書類は今日中に仕上げなければ――。
「木戸さん」
「!……お、大久保さん」
聞き慣れてしまった冷めた声が突然聞こえて、がばりと顔を上げる。
が、その振動にも激痛を伴い思わず顔をしかめた。
大久保はそんな木戸の様子に気付いているのかいないのか、
「書類を頂きに参りました」
とだけ言った。
「折角来て頂いたのに申し訳が無いのですが、未だ総てに目を通し切ってないのです」
木戸がそう言うと、大久保は何時もの仏頂面でソファに座る。
まるでそれが当然の事の様に、淀み無い動きだった。
「では、此処で待たせて頂きます」
「――そんな、」
この男が居ては集中出来ない。
思わずガタリと立ち上がったが、その瞬間刺すような痛みに襲われ目の前が真っ白になった。
次の瞬間、煙草の香のする腕の中に倒れ込む。
「……大丈夫ですか」
「……す、みません」
木戸はよろよろと大久保から離れようとするが、上手く力が入らない。
真っ青なその顔を見て、大久保はひょいと木戸を抱き上げた。
「なっ……何を……!?」
「随分御調子が悪そうなので」
大久保は慌てる木戸をゆっくりとソファに横たえた。
その何時になく親切な行動に、木戸は困惑する。
「お手数をおかけして……申し訳ありません」
「いいえ、あまり無理をなさらないよう」
そう言う声は、先程の調子と何ら変わらない。
――相変わらず、何を考えているのか分からぬ男だ。
大久保に見えないように木戸はこっそりと首を傾げた。












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