HISTORY

□大器晩成
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初めての出会いは、未だ君が幼かった時。
出会いといっても、私が一方的に覚えているだけだろう。
赤ん坊だった君の体を抱き上げて、私はあまりの小ささに緊張したものだった。
今やその小さな体も――。
「桂さん」
在りし日の思い出に浸っていると、その本人の声によって現実に引き戻された。
「あぁ、晋作。何だい?」
「桂さんがぼぉっとしていたから、呼んでみただけじゃ」
俺と話しとったのに、と唇を尖らせる。
私は思わず苦笑してよしよしと頭を撫でた。
「昔の事を思い出していたんだよ」
「昔の事?」
「あぁ。晋作が未だ赤ん坊だった頃の事」
そう言うと、晋作は不貞腐れた顔から満面の笑みを浮かべた。
「なんじゃ、俺の事考えとったんか」
「そうだよ」
「じゃったら、良い」
――晋作は、立派になった。
昔は人見知りが激しくて(今も多少は在るが)、弱く脆かった。
何処へ行くにも私にべったりで、袴の裾を掴んでいた小さな手は、今は私と同じ位の大きさだ。
「成長したね」
「当たり前じゃ。俺はアンタを守らにゃならん」
そう言って晋作はパッと鉄扇を開いた。
その風がふわりと私の前髪を浮かす。
「守る?私を?」
「そう、守る」
私の言葉に、晋作は満足そうに頷いた。
「はは」
「な、何笑っちゅらんだ?」
思わず笑ってしまい、焦り出す晋作の頭をもう一度撫でて、
「頼りにしているよ」
心を込めて、そう言った。












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