HISTORY

□Misunderstanding?
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伊藤が内務卿室の扉をノックしようと右手を上げると、中から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ぁッ、痛……!」
「大丈夫ですか?」
「大久保さん……太いのが……」
「あぁ、入ってますね」
――こ、これは……!?
伊藤の脳裏に想像したくない光景が浮かび上がる。
軽い目眩を覚えた後、伊藤は回れ右をして彼の親友の部屋に駆け込んだ。
「馨ーっ!!」
「うぉっ、何だ?」
突然の伊藤の来訪に井上はガタリと椅子から立ち上がる。
伊藤はその井上の胸に勢い良く飛び込んだ。
「お、おい、どうしたってんだ?」
「馨……あの二人、本当にデキてたよ」
「あの二人って……あの二人か?」
井上の言葉に伊藤は激しく首を縦に振った。
その様子に、井上はうげ、と声を洩らす。
「おいおい、本気かよ……誰だっけ?夫婦とか言ってたの」
「間違いないって。部屋から声が聞こえてきたの、聞いてしまったんだから」
伊藤が神妙に頷いたのを見て、井上はよし、と指をパチンと鳴らした。
「何がよし、な訳?」
「いっちょ見に行ってみるか!」
そうニヤッと笑う井上に、
「……さすが、勇気あるねぇ」
伊藤は少し引き攣った笑みを浮かべた。



結局覗き見に行く事にした二人は、
「どうした?二人共」
「「き、木戸さん!?」」
予想とは大きく外れて、内務卿室から出てくる木戸と鉢合わせてしまった。
その木戸の目は少し赤く充血し、それに気付いた伊藤は思わず
「木戸さん、目……!」
と言ってしまい、慌てて口をつぐむ。
涙を流したという事を聞くような形になり、まずいと二人の背にひやりと冷や汗が流れた。
が、次の
「あぁ、これはね。睫毛が目に入ってしまって」
という木戸の言葉に、伊藤は目を丸くし、井上はそんな伊藤にじろりと目線を送った。
――お前の勘違いじゃないか。
――仕方ないよ、ややこしい会話してる二人が悪いんだ。
ひそひそと会話をする二人に、木戸はさして気にも止めようともせずそのまま立ち去ろうとする。
そんな木戸の背中に、伊藤は声を掛けた。
「睫毛、取れましたか?」
その言葉に木戸は振り返って、
「取れたよ。というより大久保さんに取ってもらったんだけれど」
ふわりと笑った。
最近は滅多に見れない木戸のそういう笑みに二人は一瞬目を奪われる。
しかし、二人の思考は忽ち同じ所に行き着いた。
――結局のところそういう関係ですか。
二人の乾いた笑い声は、機嫌良く去って行った木戸には聞こえなかっただろう。












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