HISTORY

□虚勢と本音
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最初にこの男が憎いと感じたのは、何時だったか。
例の同盟の時か、否、その前からだったか。
痛む足を引き摺り歩きながら、そんな私の隣を歩く男に目をやる。
――何時もと代わり映えのしない、仮面の様な顔。
「……どうなされた。足が痛むのなら肩をお貸ししましょうか?」
ふと私の視線に気付き、大久保がそう言う。
「結構です」
答えて、無理に足を進める。
大久保の言葉は常に私を思いやっているようだが、本意は定かではない。
差し詰め良いように私を利用しようとしているに違いないのだ。
「痛っ……」
その時ずきりと激しい痛みが足に走り、思わずその場に崩れ落ちた。
カラカラと高い音を立てて杖が転がっていくのが視界の隅に映る。
――あぁ、あんな遠くに。
「大丈夫ですか」
抑揚の無い声が響いて、すっと骨張った手が私の前に差し出された。
「すみません」
手を取って立ち上がる。
「御気を付けて下さい」
「……えぇ」
杖を手渡され、私は思わず俯いた。
手と手が触れ合った所が妙に熱を持っている。
馬鹿な。何て様だ、これは?
唇を噛み、ぐっと杖を握り締めた。
――優しさに騙されてはいけない。絆されてはいけない。
私はこの男が憎いのだ。
憎くて堪らない。
言い聞かせるように何度もその言葉を頭の中で繰り返す。
――この男は私という飾り物が政府にありさえすれば満足なのだ。
頭ではそう理解している、理解している筈なのに、
「大切な御身体なのですから」
耳に吹き込まれた言葉は、甘く冷たく耳に響いた。











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